発達障がい食環境支援士の講師さんから、「さい帯血で発達障がいが治るの?さい帯血保管はしたほうがいい?」という質問を広告へのリンクとともに受けました。ちょっと長いので、時間のない方は太字部分だけでもお読みください。

 

さい帯とはへその緒のこと。さい帯血とは、へその緒に含まれる血液のことで、赤血球、白血球、血漿以外にも、骨髄と同様にステムセル(造血幹細胞)を含んでいます。

 

造血幹細胞は、遺伝性疾患、血液系・免疫系・神経系疾患など、さまざまな病気の治療に役立ちますが。例えば、白血病やリンパ腫などの血液の病気や骨髄移植を必要とする病気の治療に効果が認められています。アメリカでは、1996年に公的な「さい帯血バンク」が設立されて以来、3万件以上の「さい帯血移植」が行われています。

 

ただし、発達障がいや自閉症への効果は、今のところ認められていません

 

皆さんに知っていただきたいことは、 「さい帯血移植」は献血と同様に、妊婦さんから公的バンクに寄付された「献さい帯血」が利用されていることで、お金を使ってプライベートバンクに保存されたさい帯血が使われた事例は、ほぼないことです。

 

私的な保存がその子供に使われる可能性は非常に低いため、アメリカの医療機関では、兄弟姉妹に疾患があり、その治療に使われる可能性が場合にのみ、赤ちゃんのさい帯血をプライベートバンクに保存することを勧めています。というのは、せっかくお金を使っても、ほとんどのプライベートバンクのさい帯血は捨てられるからです

 

私が見たステムセル研究所の広告では、「生まれてくる赤ちゃんのために今しかできないこと」と題して、あたかも将来に向けての保険としてさい帯血保管を勧めていますが、明らかに誇大広告です。

 

プライベートバンクに保管したさい帯血は、保険にも子供へのプレゼントにもなりません。その理由を説明しましょう。

 

理由⒈ 子供が自分のさい帯血を使用できる可能性は非常に低い

その子供が遺伝病や癌の場合、全く同じ遺伝子を持ち、がん細胞が混じっている可能性のあるさい帯血は使い物にならないからです。

 

理由⒉ 量が少ない

1つのさい帯から取れる血液はとても少量なため、移植には、型が適合する複数のさい帯血を合わせて使うことが一般的です。型が適合する他人(ドナー)のさい帯血は、「公的さい帯血バンク」からを見つけます。例えば、効果が期待できると報告する脳性麻痺の臨床試験でも、ドナーのさい帯血を利用しています。

 

理由⒊ 自閉症の改善は確認されていない

広告にある「デューク大学の臨床研究で有効性が確認された」とありますが、The journal of pediatricsに発表されたこの研究グループの論文によると、有効性は認められていません。この臨床試験では、自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ2〜7歳180人を使って実施、自分のさい帯血を静脈内に移植した子供(56人)と型が適合するドナーのさい帯血を移植した子供(63人)を、移植なしの61人の子供と、6か月に比較しました。その結果、「1回のさい帯血移植では、社会性も自閉症の症状も改善されなかった」と結論づけています。

 

理由⒋ 初期費用が不明

広告では、保存料のみ提示されていますが、採取にも費用がかかります。公的な「さい帯血バンク」の場合、すべて無料ですが、私的な保存には(アメリカの場合)数千ドルがかかります。

 

理由⒌ 安全性が不明

厚生労働省のサイトには、「さい帯血プライベートバンクは、公的さい帯血バンクとは異なり、厚生労働大臣の許可を得た事業者ではないため、臍帯血の調製・保存などは国が定める基準と同様に行われているとは限りません」と記載されています。そのため、一般診療では安全性が不明なため、使われることがありません

 

理由⒍ 信頼度が不明

厚生労働省のサイトによると、現在2社のプライベートバンクがあり、「これらの事業者からは届出が出ておらず、業務内容等が把握されていないことを踏まえ、ご自身で当該事業者の業務内容、契約内容、契約終了時の臍帯血の取扱い等を十分に確認するように」との記載とともに、プライベートバンクは造血幹細胞移植法の対象外、つまり経営破綻などの理由で、プライベートバンクが保管者に無断でさい帯血を販売する可能性があることも示唆しています。

 

理由⒎ プライベートバンクのメリットが低い

現在全国6カ所にある公的さい帯血バンクには、国の基準を満たした医療機関で適切に採取された約1万本のさい帯血が保管されています。さい帯血移植にはドナーとのHLA(白血球の型)の適合率は6抗原中4抗原以上が一致した方がよいといわれていますが、今のところ90%以上の患者さんが4抗原以上適合するさい帯血を見つけています。

 

さい帯血保管をお考えの方へ

世界的に見て、プライベートバンクに保管されたさい帯血は、(量、安全性、信頼性の理由から)利用される確率が非常に低いです。利用する方法は臨床試験のみです。

 

その一方で、さい帯血は様々な疾患の治療に役立つので、公的さい帯血バンクへの寄付(無料)をお勧めします。あなたのお子さんも必要となれば利用できます。

 

さらに、あなたとあなたのお子さんの造血幹細胞は50%適合しています。万が一の場合、あなたがドナーとなって血管から採集した造血幹細胞を子供に移植することができます。

 

厚生労働省や大学病院のサイトから正しい情報を得てからご判断くさいね。

 

参考にしたサイト

厚生労働省の臍帯血関連情報

デューク大学さい帯血バンクについて

クリーブランドクリニックさい帯血バンクについて

国立がんセンター造血幹細胞移植