Erythritol sweetener in a bowl.

 

最近アメリカでは、「人口甘味料エリスリトールについて、脳卒中や心臓発作の危険が高まる可能性があるという研究結果が医学誌ネイチャーメディシンに発表された」と多くの報道機関が話題にしました。ネット検索で日本語に翻訳された記事も多数発見。ところが実際の論文を読んでみると全然違ってました。

論文のざっくりした内容は、「エリスリトールと心臓発作、血液凝固、脳卒中および死亡のリスク上昇との相関があることを、欧米で採集した絶食時血漿、及び動物実験なので確認した。次に、エリスリトール入りのドリンクを飲んだ健康な被験者8人の血中濃度を調べた結果、30分以内にエリスリトール濃度が1000倍以上に上がり、ベースラインにまで下がるのに丸一日以上かかったことを観察した」です。

ここでまず注目したいのが「血中エリスリトールがどこから来たか?」ことです。

論文では、絶食時血漿の供給者がエリスリトールを使っていた根拠は示されていません。それどころか、「これらの血漿は、エリスリトールが食品添加物として広く使われる以前に採集した」と記されています。

さらに、エリスリトール摂取後の血中濃度が、研究で使用した絶食時血漿の濃度より遥かに高かったことから、「絶食時血漿の供給者は誰もエリスリトールを摂取していなかった」ことが容易に推測できます。

つまり、脳卒中や心臓発作の危険性と相関があるとされる血中エリスリトールは、体内で作られたものであって、飲食で摂取したものではないことが明らかなのです。

実は、エリストールは体内で血糖から生成されることはよく知られている事実です。

エリストールを生成する回路(Pentose phosphate pathway)は、酸化ストレス、炎症、糖尿病や動脈硬化で活性化するので、脳卒中や心臓発作の危険性と相関があるのは、人工甘味料ではなく、エリストールを生成する回路を活発にする生活習慣にあるようです。

次に注目すべきことは、エリスリトールが脳卒中や心臓発作の危険性を高める理由が論文には示されていないことです。

マウスを使った動物実験では、絶食時血漿で観察された濃度より2倍以上高い濃度を使って血栓形成を観察しています。高濃度血小板血漿という生体モデルを使った実験でも、観察された濃度よりさらに高い濃度が使われています。しかもマウスは人間と違って心臓病を発症しないのでこの実験には不向きです。また、高濃度血小板血漿は名前の通り血小板が濃集されているので血液凝固が起こりやすいことが知られているためモデルとして不適切です。つまり、これらの実験結果は根拠としてめちゃめちゃ弱いため、著者は「相関性がある」としか書けなかったのです。

 

つまり、この論文の結論は、「人工甘味料エリスリトールを摂取していない人の血漿を調べた結果、エリスリトールの血中濃度が高めの人は低い人と比べて、脳卒中や心臓発作のリスクが高かった。これらのエリスリトールは体内で生成されたものなので、リスク上昇の原因はエリスリトールではない何か」となるはずです。

エリスリトールは、糖アルコールと呼ばれる人工甘味料の一種です。甘みが砂糖の約70%で、約90%がそのまま尿中に排泄されるので、血糖値にもインシュリンにも影響しません。残りの10%は腸内細菌または体内で代謝されるので、カロリーはゼロではないが、限りなくゼロにちかい甘味料と言えます。

一方の砂糖は、インスリン不耐症の原因となり、糖尿病、高血圧、心臓血管病や認知症を誘発すること、癌増殖を促進するなどがわかっています。

エリスリトールは砂糖に比べて遥かに安全な甘味料です。ネットニュースの記事は、論文をセンセーショナルに扱った海外の誤報の翻訳ですからパニックにならないように。