明後日の月曜日、10月11日にボストン・マラソンが開催されます。今年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、参加者を通常より33%少なく制限したそうですが、我らが超人、Joさんを始め、少なからぬ知人・友人が参加します。ボストン常連の皆さんは旧知の友人に会うことも楽しみにされていると思いますが、それ以外にも、「ランナーの強い味方」にも再会できます。

 

走る目的は皆さん違います。少しでも良いタイムを出したい人、来年の参加資格タイムをクリアしたい人、あるいはウルトラマラソン(160kmレース)や鉄人レース(水泳4km、ロードバイク180km、マラソン42km)のための調整、という方もいるでしょう。

 

運動は体にとっても腸内環境にとってもストレスです。数時間走り続けるマラソンは、ストレス反応によって、心拍数が上昇。走るために必要な骨格筋に血流を優先させて消化器官への血流を減少させて機能を落とし、腸壁のバリア機能を低下させます。

 

ベテランランナーの皆さんはもうよくご存知と思いますが、悪天候や体調不良、時差ぼけ、激坂などで、普段よりストレスが大きくなると、消化管の機能停止から、吐き気や腹痛を起こすこともあります。

 

腸壁のバリア機能低下によるリーキーガット(腸もれ)で、腸内の毒素が血中に侵入し喉の腫れ、関節痛などの炎症の要因となることもあります。だからアスリートには良い腸内環境が重要なんですね。

 

ところが近年、腸壁のバリア機能低下が思わぬギフトを腸に届けていることがわかりました。それがブドウ糖の代謝物、乳酸です。

 

もし遅筋だけで走っているなら乳酸値は上がりませんが、長く走るうちに速筋も使い(筋肉の詳しい情報は以前のブログを見てください)、それによって血中乳酸値が上昇し、緩んだ腸壁から乳酸が腸内に入ってくるのです。この乳酸がランナーの強い味方を増やすのです。

 

ハーバード大学の研究チームが、2015年のボストンマラソンに参加した15名と運動に縁のない10人の便をレースの1週間前と1週間後に集めて調べたところ、レース後の参加者の便に、Veillonella というバクテリアが増えていることがわかりました(参考文献)。走る前のランナーにも存在しますが、走ることで顕著に増えます。運動しない人はさらに少ない傾向でした。

 

ランナーの便から採取したVeillonellaをマウスの腸に移植したところ、そのマウスは13%長くトレッドミルを走りました。Veillonellaは、乳酸を餌にしてプロピオン酸を作るので、今度はプロピオン酸をマウスに与えたところ、同じように運動能力を向上していたのです。つまり、疲れの原因にもなる乳酸が、腸内細菌に働きかけて運動能力を上げる栄養物質を作っていたのです。

 

プロピオン酸には、脂肪酸性を下げて悪玉コレステロールを減少する作用、抗癌作用のほか、抗炎症作用も期待できるようです。

 

日頃からトレーニングしている皆さんなら、もうすでに腸内に強い味方、Veillonellaが多く存在するはずです。激坂でしんどい時、「今私はVeillonellaちゃんたちに餌をあげてプロピオン酸を作ってもらってるんだから頑張れる!」と思ったら、ちょっと楽しいかも?

 

ただし、レース直後は腸壁のバリア機能が低下したままなので、お砂糖たっぷりの甘い飲み物やアイスクリームをすぐに食べると、リーキーガットから、全身の炎症、例えば関節痛、口内炎、唇ヘルペス、喉の痛みなどのリスクが増える可能性があるので気をつけてください。

 

楽しいレースを!