高校3年生のまない君は1年の時に発症した、Tリンパ芽球性リンパ腫という癌を一度は克服したものの、卒業間近(アメリカの卒業は5−6月)の4月に、再発してしまいました。もう造血幹細胞移植しか普通の暮らしを取り戻すことはできません(詳しくはこちらを読んでください)。

 

日米の皆さんに骨髄バンクへの登録をお願いして、多くの方が登録したり、登録できる人に呼びかけてくださったにも関わらず、残念ながら彼の白血球のタイプ(HLA)にマッチするドナーが見つかリませんでした。ご協力いただいた方々には心から感謝いたします。本当にありがとうございました!

 

これ以上時間をかけることができないことから、まない君は7月に、 Haploidentical transplant(ハプロ移植)を受けることになりました。

 

ハプロ移植とは、血縁者の間でHLAが半分適合したドナーから移植を行う方法です。

 

HLAには多くの型がありますが、造血幹細胞移植では特にHLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを合わせる必要があります。ヒトはHLA-A・HLA-B・HLA-C・HLA-DRを2セットもっており、合計8抗原が一致することが最良です。両親から1セットずつ遺伝的に受け継ぐので、親子間ならHLAが半分合致する確率は100%なので、親がドナーとなって子供を助けることができるのです。

 

 

造血幹細胞移植に使う細胞は、骨髄、血液、へその緒から採取することができます。まない君の場合は、お母さんの血液に流れでた造血細胞を移植することが決まりました(末梢血幹細胞移植といいます)。


通常、造血幹細胞は血液中にはいないため、白血球をふやす薬であるG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与したあと、骨髄から血液中に流れ出した造血幹細胞を「血球成分分離装置」を使って採取します(下図)。

国立がん研究センターHPからの転用

 

移植前にはがん細胞を減少させたり、移植された細胞を拒絶しようとする免疫反応を抑制したりするために大量の抗がん剤投与や放射線照射が必要となります。彼は今、その治療に耐えています。血液中の正常な細胞も著しく減少し病原体に感染しやすくなっているのですが、免疫を抑制しているため、新型コロナワクチンが接種できません

 

移植後も長い闘病生活が待っています。

 

お母さんの造血幹細胞に混じる免疫細胞が、彼の正常細胞を異物とみなして攻撃する可能性があります。

 

さらに、お母さんからもらう細胞は半分しか適合していないので、徹底した拒絶反応の抑制が必要です。そのため強い免疫抑制剤を数ヶ月にわたって投与されることになり、その間は彼の生活環境の衛生管理・感染症予防対策も必要です。

 

例えば、食事も移植後100日間はLow-microbial diet(低微生物食)と言って、微生物の混入の可能性のあるもの、例えばカット野菜、デリバリー、少しでもいたんだフルーツなどは食べられません。


ハプロ移植は確立された療法です。まない君と彼の家族には長い闘病生活が待っていますが、その先にあるのは明るい未来です。大学進学、スポーツ、バイト、デート、旅行などのたくさんの楽しいことが待っています。