Protecting Olympic Participants from Covid-19 — The Urgent Need for a Risk-Management Approach(オリンピック参加者を新型コロナから守るため、緊急に対策が必要だ)というNew England Journal of Medicineの論文で、IOCの新型コロナウイルス対策に科学的根拠がないこと、このままではアスリートすら守られないことが明るみにされました。

 

ほとんどの国では17歳以下のワクチン接種はできません。アメリカでは12歳以上ならワクチン接種できますがそれは稀な話です。その一方で、多くのティーンエイジャーが水泳、ダイビング、体操競技などに参加するので、彼らが無症状のまま、各種変異株を自国に持ち帰る危険性があるのです。

 

以前のブログで書きたような、日本に住む人々と参加者だけではなく、アスリートの母国にもこのように明らかなリスクがあるため、著者らはできれば中止をと書いています。その根拠となるところをメインに、抜粋で翻訳しました。

 

上記論文に掲載された科学的対IOC対策の比較

 

選手を感染から守るには、少なくても個室が必要です。今年1月に開催されたハンドボールの世界選手権では、2人部屋の1人が陽性だったため、もう1人の選手も出場停止になりました。東京のオリンピック村に個室はありません。共有スペースでのソーシャルディスタンス規定もないので、同室者の感染で出場できないアスリートが出る可能性があります。

 

IOCガイドラインに感染が起こった場合の対策がありません。感染拡大を防ぐ特定のリスクアセスメントもありません。

 

IOCガイドラインでは、アスリートは自己責任で参加するとあり、限られた補償しかしません。言い換えると、IOCはアスリートに、感染しても保証はしないという不利な契約を強要しているのです。

 

責任の所在も明確にしていません。競技によっては濃厚接触で感染リスクが高いにも関わらず、競技ごとの注意喚起がないのです。

 

IOCガイドラインでは、アスリートが自分でマスクを用意することになっていますが、それではクオリティーがバラバラです。科学的に予防するなら一定基準を満たしたものを配布する必要があり、バス移動のような密の場合は、医療用マスクの用意が必要です。
 

新型コロナは感染しても無症状だったり、48時間何も症状がないことがわかっているので、感染爆発を防ぐには、毎日RT-PCR検査をするのが理想ですが、IOCは検査の回数などを明確にしていません。フィットビットやオーラリングのような装着型の体調管理システム(つけっぱなしで体温、心拍数、呼吸数、睡眠の質などを測る装置)は使わず、スマートフォンの位置情報だけに頼るため、アスリートの感染察知が遅れます。

 

著者らは、「このパンデミックで、全世界の人が『人の尊厳、多種の利害、将来の脅威への対策』について考える機会が訪れた。WHOは緊急のオリンピック安全委員会を設置して、参加者全員と日本人、さらに参加国の人々を守る対策を作る必要がある」と訴えています。今年のオリンピックは、誰にとっても他人事ではないのです。