講談社学術文庫読書記録 No.66『地中海世界とローマ帝国』 | BLOGkayaki1

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『興亡の世界史 地中海世界とローマ帝国』本村凌二 2017.9

 

 紀元前146年、繁栄を極めた海洋国家カルタゴの市街地が、ローマ軍によって陥落し炎上した。
 この年からローマ帝国は、カルタゴに代わって地中海の覇者となる。
 だが同じく繁栄を誇ったローマ帝国にも終わりが来る。395年に帝国が東西分割され、かつての首都ローマを擁する西ローマ帝国は476年に消滅し、事実上、地中海の覇者から陥落した。

 ローマ帝国勃興からカルタゴ戦(第三次ポエニ戦争)、そして西ローマ帝国消滅までの“ローマ帝国興亡史”を扱ったのが本書である。
 特徴的なのは、著者が同時代の著述家及び歴史家の著書を引用しながら解説しているところだ。
 カルタゴの陥落を目の当たりにした歴史家ポリュビオスは、何を考えて歴史を叙述したのだろうか。

 ポリュビオスにとって、歴史とは何か。
 彼にとって歴史とは「普遍史」あるいは「世界史」であり、「歴史はたんなる物語ではなく実践に役立つ範例でもある」という(本書24ページ)。
 かつてのイリアス(トロイ)が炎上し、アレキサンドロス大王のマケドニアも瓦解したように。目の前ではカルタゴが炎上し、ゆくゆくはローマも解体してしまう。
 ポリュビオスは「今のローマ帝国」がどのような経過をたどって成立したのか、という「普遍」を見出すことにより、歴史の教訓を引き出そうとしたのだろう。

 ところで彼は、将来ローマ帝国が滅びる予感の脇で、帝国が永続することを願っていただろうか?
 それとも、どうあがいても滅亡は免れないという歴史の教訓から、帝国の永続はあきらめていたのだろうか?
 彼の著書『歴史』から読み解いてみるのも面白いかもしれない。
 しかし、大事なことは、現代のわれわれがそれらを読んで、今の21世紀の文明が、今後どうなるかを予測する事ではないだろうか。
 

古代末期を衰退や没落と考えるのではなく、人間の営みの時代として理解してみる。やはり人間というものは常に新しいことに挑戦しているのであり、そのような時代として見直すべきなのだろう。  (本書355頁)

 

 これは、現代の歴史家からのメッセージである。
 人間の営みとして歴史を理解すれば、その営みが度々繰り返されてきたことにも理解が及ぶ。
 古代ローマ皇帝の交代劇は、18世紀フランスの革命と恐怖政治、16世紀日本の戦国時代を見ているかのような場面もある。
 313年の「ミラノ勅令」に至っては、多神教世界から一神教世界への大転換を宣言したものであり、戦国時代の日本に入って来たイエズス会による宣教のインパクトを考える上でも大いに参考となる。
 そして今という時代は、社会のつながりから疎外された人々がすがったキリスト教をローマ皇帝が合法化したこの「勅令」が出された時代の背景を、慎重に検証すべきではないだろうか。