講談社学術文庫読書記録 No.56 『東インド会社とアジアの海』 | BLOGkayaki1

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『興亡の世界史 東インド会社とアジアの海』羽田正 2017.11

 

 貿易戦争というと2019年の今現在ならば中国とアメリカの競り合い(アメリカの一方的な我儘にも見えるが)を思い浮かべるところだが、17世紀に遡ればそれこそまさに「戦争」状態であったイギリス(イングランド)とオランダ(ネーデルランド)の熾烈な争いがあった。
 両者は「東インド会社」を設立して、東インド、つまりインドの東側である東南アジアの商品を求め、その覇権争いをアジアの海で繰り広げた。

 

 といっても、「東インド会社」のことを多くの人はどう思い描いているだろうか。あまり関心が無いのだろうか?長崎で育った身としては「VOC」というエンブレムに少なからず親近感を持っているのだが。(ちなみにVOCとはオランダ東インド会社のことだ。)


 個人的には思い入れのある「VOC」を、海外の港町を訪れるたびに目にすることとなる。タイのアユタヤ、マレーシアのマラッカ、スリランカのゴール…。実はこれらはすべてユネスコの世界遺産に登録されており、世界遺産巡りをしているうちに図らずも東インド会社の貿易拠点を巡っていたのだ。ますます親近感がわいてくる。

 

 

 もっと東インド会社のことを知りたいと思い、本書を書店で見つけた途端即買いをし、早速中身を読み進めていった。
 ところがそこには、知られざるというか、あまり知りたくなかった、東インド会社の悪しき実態が綴られていたのだ。要は、スペインの征服者のようなことを、国は滅ぼさないまでも侵略剥奪行為をやらかしていたのだ。
 特にオランダ東インド会社にはそんな悪いイメージはなかった。むしろ、長崎の出島という狭い人工島に押し込められたにもかかわらず何一つ文句を言わず従順に徳川政権の意向に従っていたのだから、良いイメージを抱いていた。そのギャップには驚かされた。
 ちなみになぜ日本ではおとなしくしていられたかというと、理由は単純明快で、儲かったからだ。それはオランダ東インド会社の利益の半分以上を占めるほどだった。なぜそんなに儲けられたのか?日本貿易を独占できたからだ。それだけ日本には渡来品が、海外には有田焼が沢山輸出入されたのか、と言ったらそういうわけではなかった。その点は本書で明らかにされているが、突き詰めてみるとなるほど面白い。

 

 ところで、東インド会社に思い入れが全くない人でも読んでいただきたい、読みごたえがある部分を挙げれば、終盤の東インド会社の終焉していく過程であろう。
 絶対的な権力と財力を誇った会社が、いかにして時代に取り残され、変化についていけず瓦解し、世間から批判されてしまったのか。時代の変化が激しい今現在においてこのことは示唆に富んでいるのではないだろうか。