今回は「鈴」「空」「田舎」です。
前後編に分かれます(´∀`)



和樹は市立小学校に通う、二年生。
根っからの悪童で先生はいつも手をやいている。
ある時は金魚バチを割り、ある時は先生に対して暴言を吐いたり。
とは言え、優しい面もあるため憎まれたりひとりぼっちになることはない。
女子には呆れられてはいるけれど。

*

そんな和樹は春休み。
朝起きてご飯を食べるとすぐに外へ駆け出していく。
今日は裏山の池に向かった。池の周りにはツクシがたくさんはえている。左手に握りしめたナイロン袋をブンブン振り回しながら、ツクシをとった。

「ツクシ、食べるの?」

上から聞こえた声に見上げると、女の子が立っていた。おかっぱ頭の女の子。

「……誰?」

和樹は眉にしわを寄せる。それを見た女の子は笑った。

「鈴子」

「すずこ?」

「ツクシ、食べるの?」

鈴子はまた同じことを聞いた。和樹は口を尖らせ、下を向いた。

和樹は確かにこれを食べるつもりでいた。お母さんに頼めば佃煮にしてくれる。でも和樹の姉、美里はこれが嫌いだった。それを無理やり食べさせるのが、和樹の目的だった。いつもなら勝てない姉に、勝てる瞬間だからだ。

しかしそれを鈴子に言うつもりはなかった。

「別に」

ぶっきらぼうにそう言ってみたけれど、鈴子は何ともない。

「ね、それなら面白いことしようよ」

「面白いこと?」

再び顔をあげる。鈴子はにこっとして、池の向こう側に目を向けた

「あそこにね、洞窟があるの。探検してみない?」

危ないことが大好きな和樹にとって、それはとても惹き付けられるものだった。
迷うことなく、和樹はすずこと洞窟に入っていった。
ツクシはそこに置いたまま。

*

「もう少し行くとね、道が二つになるんだよ」

「すずこ、お前ここに入ったことあるのか?」

「勇敢な探検家は何度もここに入っている」

もっともらしく言う鈴子に和樹はクスッと笑った。

「あー! 信じてないでしょ。それなら証明してあげる。この先に、ぬいぐるみがあるからそれを取ってきてよ」

鈴子の言った分かれ道でそう言った。

「えー何で俺が」

「いいから!」

鈴子に言われるままに洞窟を進んでいくと、確かにぬいぐるみがあった。そこだけ洞窟の天井が崩れて空がぽっかり見えていた。
洞窟の中からは、ぬいぐるみが光を浴びて浮き上がっているようにも見えた。

ぬいぐるみを掴むと、和樹は一目散に鈴子のところへ走った。

しかし、誰もいない。

りりー…りりー…
かすかな音。鈴だ。

「すずこ?」

りりー…リンッ
鈴が落ちた音がした。

「すずこ?」

自分が進まなかった方の道に目を凝らす。
白い……何か。

「すずこ?」

その時、肩にあたたかいものが置かれた。

「うわああああああああ!」

咄嗟にその何かを振りきりったものの、恐怖に腰が抜け、地面にへたりこんだ。

「そーんなにびっくりしなくてもいいでしょー!」

そこにいたのは鈴子だった。腰に腕をあて、鼻を鳴らす。

「な、何だよ。すずこかよ。びっくりさせんなよな」

「オバケが怖いんだー?」

「怖くない!」

「へーそう? あ……」

鈴子の視線はぬいぐるみに向いていた。
じっくり見ていると、ところどころ破けて綿が出ているし、カビも生えている。

「破れてる……」

鈴子の弱々しい声に、和樹は意気がった。

「これお前のかよ。これがないとダメなんて子供じゃん」

すると急に鈴子は目を潤ませた。わっと逃げ出した鈴子を和樹は追いかける。
しかし洞窟を出た瞬間に見失ってしまった。

手にあるぬいぐるみを見つめる。

「母さんなら直せるかな」

和樹はツクシの入ったナイロン袋を掴むと、家に向かった。

*

母さんは直してくれるって言ったけど、俺が誰かのを盗ってきたんじゃないかって疑った。だから本当のことを言っても信じてくれなかった。
ついでに、洞窟に入ったことも怒られた。

姉の美里にはそのぬいぐるみのせいでからかわれたし。


***


その日から毎日、あの池のほとりへ行ってみるけれど、鈴子の姿は見なかった。