『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』 | 手が知っている異界の彩~絵師・緋呂 展示館~

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『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』
見てきました。

オフィシャルサイト→http://www.foxmovies.jp/lifeofpi/


去年11月に、「リンカーン/秘密の書」を見に行った時予告編が流れて。
これは、絶対に映画館で見ようと決めたのでした。

見に行ってきて、よかったです。

全編通して、とにかく映像が美しい。
千変万化の海と空。
驚異の浮島。
海洋生物たち。
それに、なんといっても…虎。

ぽやっとした、浮き世離れした感じの主人公が変わっていく過程も、よかった。



見る人それぞれに、いろんな見方やいろんな感想があるのは当然として。

この映画は、私は見るべくして見た作品だと思いました。


主人公は、インドで生まれ育ち、ヒンドゥーの神を信仰し、10代初頭にキリスト教に出逢い、それからしばらくしてイスラム教に傾倒し、3つの宗教を信仰する。

ふわふわした感じの少年に、人間と猛獣の違いを体感させるために動物園を経営していた父親がしたことは、今の日本だったら多分、強烈に非難の嵐に晒されることだろうと思う。
けれども、これこそが「百聞は一見にしかず」で。
「現実の世界」を、思い知らされるわけですが…そこで最初に、後に共に漂流することになる虎が出てくる。

なんか、不思議でした。
撮影は、ほとんどがCGだそうで。
最初の登場シーンは、確かに、なんかCGっぽさがちょっと目立った感じだったのですが…ストーリーが進行するに従い、全く、CGには見えなくなる。
生き物が映ってるようにしか、見えない。
ヘタに擬人化されずに、動物としての虎そのままを作っているから、それがよかったんでしょうね。
ワンカットだけ「ちょっとまて、まさかここで喋ったりしないだろな」っていう気持ちになった場面がありましたが…良かったです、喋らなくて。
そこでもし喋ってたら怒ってたね、多分。
制作がディズニーとかだったら、喋ってたかも知れない…ダメダメ、ダメです。

私には、とある渋いおじさん系声優さんの声で、そこで虎が答えたこと…っていうのが、「聞こえた」けども。
実際に喋られたら、いきなり興醒めっすよ…ああいうのは、勝手に想像するからいいのだ。


少年一家がカナダへ移民する途中に嵐で船が沈没し、一人生き残るわけですが。
とても些細な場面に、いろいろと、織り込まれているものがありました。
主人公の目には、父親は「経営者」であって動物の世話は苦手(あまり可愛いと思ってない、と感じてる)だと、遭難の前は、見えている。
けれど、それを匂わせたシーンが、後になって、そこで父がしていたことは、自分の労働を減らすためではなかったのかも、と思わせるような別の場面へと繋がったりしてね。
うっかりしていると見逃すような、細かい作りになっていたと思います。

僥倖と災厄が表裏一体、同じ出来事が祝福にも痛手にもなる。

そして、彼は常に、神が共に在り、様々な形で自分達を守ってくれていることを、あらゆることから感じとる。


物語の最後の方では、作中においても、映画の観客にも、黙って、あることを提示してきます。
ものの見方や、何を信じたいかということが全てだ…ということ。


「パイ」は、主人公が自分で決めた自分の「呼び名」です。
本名が、インドの言葉だとちょっとイジメネタになっちゃうもので、それを跳ね返すためにとった彼の策は、別の名で自分を呼ばせるための、ものすごい一発大逆転作戦でした。
名前ネタでいじめられないようにするために、あそこまでやる子って、そうそういないと思う。
どういう状況でも、自分で覆すことができる、っていうことを見せてくれてます。

現実は映画とは違う…そうそううまくいきゃしない…と。
思うけど。

それでも、そこまで徹底したことをやったか…って思い返してみると、まだまだ、できることが残ってるってこと、溢れかえっているんじゃないだろうか。



みんなにむかって「見て!」とは…思わないです。

海好き、虎好きなら、見てもいいかも(笑)


うーん…それにしても。
途中で上陸する浮島があるのですが。
ミーアキャットの大群が………超可愛い。
ミーアキャットまみれになって寝る主人公……いいなあ…。








余談。
この映画の予告編は、「リンカーン/秘密の書」を見た時に見た…と、上に書きました。
そして、今日、この映画が上映される前に流れた予告編に、それとはまた別の「リンカーン」の予告が流れました。
で、シネコンの部屋を出て、チケット売り場の前を通り過ぎる時、モニターには、またまた別のリンカーン暗殺を巡る作品の予告編が……。

なんで? やたら、リンカーン??