円安によるインフレという副作用が当初から強く懸念されていた。その懸念は、野口悠紀雄氏や金子勝氏らの政府の外にいる経済学者・エコノミストだけでなく、黒田東彦総裁の前任者であった白川方明総裁ら政府・日銀内部の関係者も有していた。

 白川総裁らは、金融緩和による市場へのマネー供給に後ろ向きだったわけでなく、世界金融危機後の経済政策としてそれらの必要性を理解し、実際に日銀は大規模な金融緩和を行っていた。黒田総裁による異次元金融緩和は、リスクを過剰に高めるとして、世界のどこの中央銀行においても、それまで禁じ手と考えられてきた政策であった。

急激な円安に伴う価格上昇が、企業や家計を直撃しているのは事実であり、一定の対策は不可欠だが、それを「勝ち組企業」による「中抜き」形式で行う必然性はない。この間、リスクの指摘に耳を貸さず、アベノミクスを謳歌してきた大企業と経営陣には、市場経済の原則どおり、自己責任をまっとうしてもらわなければならない。

企業でも家計でも、価格上昇に脆弱なポイントは概ね明らかであり、そこに手当てすることが適当である。例えば、中小零細企業であれば、所有するエネルギー消費設備について、有利な補助金を大規模に用意して、高効率型の設備への転換を促進する。大企業であれば、総量規制型の排出量取引制度の導入と引き換えに、設備転換への大規模な補助を行う。それにより、産業全体のエネルギー効率を大幅に高め、今後のリスクにも備えられるようにする。

 家計であれば、生活保護費や児童手当を増額・対象拡大したり、家賃補助や給食費の無料化を導入したり、学費や医療費の自己負担を減額したりと、家計へ直接的に資金投入するのが適切である。そうすれば、リスク管理を行いがたかった、インフレに脆弱な家庭に対して、効果的に支援できる。

、何より必要なことは、未だに「デフレ脱却」を掲げている政府の基本的な経済政策の転換である。2022年7月に閣議決定された『経済財政白書』では、日本経済の現況について「デフレ脱却に向けて十分とはいえない状況にある」(同52頁)との認識を示し、引き続き「物価が持続的・安定的に上昇し再びデフレ状況に後戻りする見込みがない状況」に向けて経済政策を展開するという。

 すなわち、物価の急速な上昇が現実の政策課題になり、大規模な価格抑制策を実施するにもかかわらず、経済政策の基本方針は、物価の「持続的・安定的」な上昇を目指すというのである。

 片方で物価の抑制策を実施し、片方で物価の上昇策を実施するのでは、どちらの政策も効果を上げることはない。何より、現在の物価上昇は、物価上昇をめざしたアベノミクスの帰結である。岸田首相は、アベノミクスの「成功」に恐れおののきながら、安倍派議員の反発を恐れてアベノミクスの旗を降ろせないのである。

 結局のところ、物価抑制と物価上昇を同時に目指す矛盾した経済政策が、岸田首相の求める「新しい資本主義」なのだろうか。指摘されてきたリスクに備えられなかった企業と経営者を救済し、リスクに備えてきた懸命な企業と個人を愚弄するのが「新しい資本主義」なのだろうか。

 

https://webronza.asahi.com/politics/articles/2022101800005.html?page=3

 

金利低下という借り手のモラルハザードと無計画無謀な借金を助長してきた円安誘導そのものを撤廃しないと日本版サブプライムショックが爆発するのも時間の問題だ。

 

もともと返済能力などない住宅ローン債務者など一斉に破産させて、不動産の保有と意地の余裕のある買い手に集めることによってこれ以上の破綻要因を作らないことが求められる。