BOOKSELLER(イギリス業界誌)2024年3月13日記事

日本人作家 売上急増で英国最大の翻訳輸入国に

マンガの売上が過去最高を記録した2022年後も堅調な販売をキープする中、英国における翻訳作品は今も絶好調であり、その中でも日本のクリエイターによる小説が主な受益者になっている。

 

マンガが大ヒットを連発し、さらに「心地よい小説」と呼ばれる、猫が登場して図書館やカフェといった場所で展開される日本人作家による小説群が2023年の英国の翻訳書市場を席捲した。ニールセンブックスキャンによると翻訳書トップ30のうち17タイトル、そしてベストセラー20作品中9作品が日本語を原書とする作品であった。

作家単位では、マンガ界の巨匠 三浦建太郎が2年連続で売上首位に立った。2021年に54歳で急逝して以来、三浦による『ベルセルク』シリーズの売上が急上昇している。三浦の売り上げた220万ポンド(4億1800万円)は、特定の大ヒットによるものではなく、BookScanのMangaカテゴリーにおける三浦の持つ膨大なバックリストにおける通常のセールスプロファイルの中で達成された。2023年のTotal Consumer Marketで5桁以上の販売部数を記録したのは『ベルセルク デラックス版 第1巻』(刊行:ダークホース)の1冊のみである。また、5000部を超えたタイトルはわずか3作だった。

しかし三浦ファンは喜んでお金を出した。『ベルセルク デラックス版』の希望小売価格は47.99ポンド(9133円)で、第1巻の売上部数のうち11,000冊は38.88ポンド(7400円)という目を見張るような平均販売価格を誇った。三浦作品全体の平均小売価格は25ポンド強(4800円強)で、昨年のTCMを通じて50万ポンド以上を稼いだ作家の中で最高額を記録した。これはここ数年のマンガデータの一貫した傾向を反映したもので、10~20代のコア読者層を考えると、直感に反するように思えるかもしれない。しかし、三浦ファンにとって価格は障壁ではないようだ。なお、昨年TCMで販売された典型的なマンガ本の平均価格は11.47ポンド(2185円)で、比較のために一般的な文庫版フィクションの平均価格は8.82ポンド(1680円)である。

2023年のマンガ売上は8.4%減の2610万ポンド(41.2億円)で2022年の記録を下回ったとはいえ素晴らしい年だった。2022年を除けば、昨年は2001年にBookScanのデータ解析が始まって以来、このカテゴリーで最大の売上を記録したことになる。

 

その結果、マンガは英国の翻訳市場を急成長させた。とはいえ、このことをソーシャルメディア上で話すとマンガの重要性を軽視する文芸マニアから反論が入り、ウンチクを語られるであろう。しかし私は、過去6年のマンガの大躍進は過去3年間に人気を博した日本の文芸小説に直結していると感じており、おそらく多くの英国人読者にとって日本の文芸文化に触れる最初の接点となり、道を提供しているのだと主張したい。ともあれ、昨年は8人の翻訳作家がTCMで100万ポンド以上の売上を記録し、うち7人が日本人で、うち5人が漫画家だった。マンガ売上の95%強は日本語をオリジナルとする作品で、それ以外の地域だと、韓国の作家ChugongとDUBUによる『俺だけレベルアップな件』やマンガに隣接する表現を専門とする中国の作家Mo Xiang Tong XiuのようなYA/New Adultのファンタジーロマンスを専門とする作家などがいる。

 

コーヒーの熱い一筋

 

作家ランキングの2位は川口俊和で、ジェフリー・トルーセロ訳による『コーヒーが冷めないうちに』のベストセラーを含む3作品がトップ20にランクインしている。大阪出身の川口俊和は、インディーズ系書店とウォーターストーンから支持され、英国で静かに燃えるセンセーションを巻き起こしている。BOOKSELLER誌2023年のFiction Heatseakerの王者であり、英国公式トップ50チャートにランクインしたことのないトップセラー小説家である。

 

川口は公式トップ50の一線を越えてはいないが、『コーヒーが冷めないうちに』は驚くほど安定的に売れており、2019年の英国での刊行から2022年半ばまでは1週間あたり500~900冊の範囲で推移しており、現在では毎週1500~2000冊の間で推移している。この瀟洒な日本小説のトレンドをリードしているのは川口だが、他にも有川浩『旅猫レポート』(訳:フィリップ・ガブリエル)、青山美智子『お探し物は図書館まで』(訳:アリソン・ワッツ)、夏川草介『本を守ろうとする猫の話』(訳:ルイス・ヒール・カワイ)などがヒットしている。

 

BookTokは多くの作家の後押しをしてきたが、まさか2000年前に死んだローマ皇帝までも懐に抱くとは思わなかっただろう。しかしストイシズムはTikTokにおけるライフスタイルのトレンドとなり、それに伴い、この哲学の提唱者でありパクス・ロマーナ時代最後の皇帝であるマルクス・アウレリウスの売上が大きく伸びている。アウレリウスの著作が昨年稼いだ額は816,000ポンドで、2022年比で79%増だった。マーティン・ハモンド訳『自省録』の2023年の売上は45,000冊を超え、これは2006年の発売以来、最初の10年で積み上げた『自省録』売上の3倍にあたる。

トップ20の顔ぶれはエレーナ・フェランテ、ジョー・ネスボ、パウロ・コエーリョ、村上春樹とお馴染みのメンバーで、このうちネスボ、コエーリョ、村上の3人は英国で正確な記録が始まってからのベスト2位~4位の作家である。2位のネスボは2620ポンドの売上、ちなみにその上を行く歴代1位はスティーグ・ラーソンの3480ポンドである。このトップ20の中には昨年のブッカーズ賞国際部門を受賞したブルガリアの作家ゲオルギー・ゴスポディノフ『タイム・シェルター』(訳:アンジェラ・ローデル)などの新顔や、エーリッヒ・マリア・レマルクの定番クラシック作品『西部戦線異状なし』が、エドワード・バーガー監督によるNetflix制作映画として昨年のオスカー最終週国際映画賞を受賞したことを受け、急上昇をマークして入ってきている。