俳句カレンダー鑑賞(7月)「鉾の稚児帝のごとく抱かれけり(古館曹人)

※7月の俳句カレンダー全容は↓

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12835397741.html

 昭和57年の作で第5句集『樹下石上』所収。

 祇園祭では現在33基の山鉾が巡行するが、そのなかで本物の稚児(生稚児)が乗るのは常に先頭をゆく長刀鉾だけである。その他の山鉾は人形を乗せている。本句は稚児が屈強な男に抱かれて長刀鉾に乗り込む場面である。この時点で稚児は既に神の使いとなっており地上を歩かないので山車の舞台に抱えあげられる。その瞬間を首尾よく捉えた。「帝のごとく」とは幼帝安徳天皇のことを想像したものと思われるが、曹人の手応え感が伝わってくる。

 本景は四条烏丸での嘱目であり、この後四条麩屋町では稚児による斎竹の注連縄切りがある。危険なので実際には稚児の後の大人が二人羽織のように太刀を振るらしい。曹人はこの日長刀鉾を追いかけたそうで、その場面も観察したに違いないが句集にはない。比較的連作の多い曹人にして山鉾巡行はこの一句に絞り込んだ。本句に賭けた集中力のほどが窺える。(丹羽真一)

古舘曹人=1920年2010年佐賀県杵島郡出身。本名、六郎。唐津中学(現:佐賀県立唐津東中学校・高等学校)、五高東京大学法学部卒(在学中に学徒出陣)。東大ホトトギスにて山口青邨に師事、「夏草の編集をする1947年太平洋炭鉱入社。1979年句集『砂の音』で俳人協会賞受賞。俳人協会顧問、太平洋興発の副社長も務めた。2010年、老衰のため90歳で死去。「海峡」「繍線菊」「日本海歳時記」などの句集の他「山口青邨の世界」「青邨俳句365日」(編著)「甦る蕪村」などの著書多数。


丹羽真一さん=昭和24年大阪生まれ。昭和55年「 夏草」入会、山口青邨、古舘曹人に師事。昭和63年俳人協会入会。平成2年 「夏草」新人賞受賞。平成3年 「夏草」同人。(同年終刊) 平成9年 「樹氷」入会同人。小原啄葉に師事。平成17年吟行句会「ももくり会」立上げ。俳誌「樹」に入会し、平成28年「樹」代表に就任。現在、前職のほか「樹氷」木魂集同人、「 慶大俳句丘の会」所属。俳人協会幹事。句集『緑のページ』『お茶漬詩人』『風のあとさき』『ビフォア福島』など。