少し、想像してみてください。

 

 

人類が、月面に行く――。

そんな話もちらほらと現実味を帯びてきた頃、

幸運と呼んでいいかはわからないけれど、

月に行く最初のメンバーにあなたは選ばれた。

 

 

スペースプレーンに乗り込んだあなたは、

はじめての無重力空間を体験し、

計画通り、月面に着陸することになる。

 

 

扉が開き、いよいよ月面に足を踏み出すときがきた。

「……わぁ」

あなたは目の前にひろがる

色鮮やかとは言えない白と黒の世界。

その大地に感動するのだ。

 

 

そして、一歩を踏み出し、月に足をつける。

「いま、私は、月を踏んでいる…!」と、

まるでクララが立った時のように自分の一歩に感動する。

 

 

そして、月面についた自分の足跡を見て、

「わたしの一歩が月に……」

と、ただの自分の足跡に感動する。

 

 

足元を見ると、月の石が落ちている。

その石を手に取り

「月の石だ…」と感動する。

 

 

月にある山に感動し、

月にある谷に感動し、

月にある光に感動し、

 

 

やがて、月平線とでも呼ぶべきか?

月の地平線から昇ってくる青く光る星を見て、

「なんて綺麗な星だろう…」と感動する。

 

 

サンライズならぬ、アースライズだ。

 

 

その青い星を見ながら、

「私に生まれてきてよかった…」

と心の中で強く思う。

 


大地を踏めるだけで感動し、

足跡が残るだけで感動し、

石ころを見つけて感動する。

 

 

 

さて、

なぜでしょう?

 

 

ただ、足が地面に触れただけ、

 

ただ、足跡が残っただけ、

 

ただ、石ころを見つけただけ、

 

そして、月や太陽が昇るのと同じように

地球という星が昇ってきただけ。

 

 

ただそれだけで、

なぜ感動するのでしょう?

 

 

「月だからやん!」

と思うかもしれないけれど、

きっとそれだけじゃない。

 

 

【特別だ】と

自分が決めたからだ。

 

 

今日という日はなんて特別なんだろう。

今日という日はなんて奇跡で溢れているんだろう。

 

 

目の前は、特別だ。

目の前は、奇跡だ。

 

 

そう自分で決めたから、

見るものすべて、

感動を感じるような特別な存在になったのだ。

 

 

ただ、大地を踏みしめて感動する。

ただの足跡に感動する。

ただの石ころに感動する。

 

 

地球上で、ほとんど同じことができるのに、

ただ、それだけのことで感動できるのは、

目の前の世界を【特別だ】と決めたからだ。

 

 

もしかしたら私達に必要なのは、

感動を探すのではなく、

感動を求めるのではなく、

 

 

「目の前の世界は

ふざけてるくらい特別だ」

そう決めることなのかもしれない。

 

 

今日という日は特別だ。

今日という日はプレゼントだ。

今日を楽しもう。

 

 

 

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美言2173『今日という日は特別だ』

 

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