世界の選挙ラッシュで、様々な政権交代が起こった。4日のイギリス総選挙、5日のイラン大統領選挙決選投票、そして7日のフランス国民議会第2回投票、同日の東京都知事選である。


予想どおりの労働党の大勝、惨敗の保守党はトラス元首相も落選​

 本日は、まず4日投開票されたイギリス総選挙を取り上げる。

​ 結果は、当初の予想どおり野党・労働党の圧勝だった。これにより労働党党首のスターマー氏が首相に就く(写真=5日、首相官邸前で演説するスターマー氏)。スナク首相率いる保守党から政権を奪うのは、14年ぶりだ。​

 

 

 労働党の勝利は、地滑り的大勝だった。総議席の6割以上の412議席(解散前206)を獲得した。保守党は解散前の3分の1近い121議席(同345)に転落した。

​ 惨敗ぶりはすさまじく、元首相のリズ・トラス氏も落選した(写真)他、スナク政権の閣僚も10人以上が議席を失った。​

 


EU離脱の保守党の失敗​

​ 振り返れば、保守党の野党転落は、7月4日にスナク首相が議会解散・総選挙を発表した時から予測されていた(写真=敗北の弁を述べるスナク氏)。​

 

 

 EU離脱(ブレグジット)によりEUからの通関手続きが生まれ、東欧からの労働力流入もストップした。これに、ロシアのウクライナ侵略に伴う石油・ガスなどの値上がりが加わり、一時は年率11%に近いインフレとなった。

 資源値上がりによる物価高はやむを得ないとしても、明らかにEU離脱はイギリス経済にマイナスとして働いた。今、イギリス国内では、安直にブレグジットを選んだことの後悔「ブレグレット」が広がっている。その怒りがブレグジットを行った保守党に向いた。


不法移民対策が最大の難所​

 新首相に就くスターマー氏は労働党の穏健派で、外交・内政で大きな変化はもたらさないと思われるが、伝統的な親EUの労働党首相らしく、EU再加盟は無いとしても、通関手続きの簡素化などスナク政権以上のEUへの接近を図るだろう。

 それ以外の対米、対日、対スターリニスト中国関係には大きな変化はないだろう。もっとも11月のアメリカ大統領選でトランプ氏の再登板となった場合は、対米外交に苦慮するかもしれない。

 また内政面では、地球温暖化対策にはスナク政権以上に力を入れ、北海のガス田・油田の新規開発は停止し、非EVの自動車の販売停止を5年前倒しが予想される。

 ただ、今回の総選挙でも明らかになったように、イギリス国民の反不法移民感情は高まっている。


極右「リフォームUK」の大躍進​

 それを先導するのが、反移民・ポピュリストの極右「リフォームUK」だ。

 反移民・ポピュリストの高まりは、EU各国でも高まり、去る6月30日には、フランスの同じ極右の国民連合が第1党に躍り出た。それが、イギリスでも明確になった。

 「リフォームUK」の今回の得票率は14.3%と、前回総選挙に比べて実に12.3ポイントも増えた(ただし小選挙区制のため獲得議席は4議席に留まった)。

 スターマー労働党は、アフリカからの不法移民をウガンダに送致するというスナク政権の政策を止める方針だが、不法移民が溢れれば、一転して反スターマー・反労働党感情が高まるだろう。


得票率はさほど増えていない労働党​

 イギリスの選挙制度は、完全小選挙区制で、ドイツや日本のような比例代表による小党救済措置がなく、また過半数を取れなくとも第1党が大勝する傾向がある。

 今回も、224議席も減らした保守党は得票率は23.7%だったけれども、保守党の4倍近い議席を取って大勝した労働党の得票率も33.7%しかない。前回と比べれば、たった1.6ポイント増えただけだ。つまり3分の1程度の得票率で、3分の2近い64.4%もの議席をとったことになる。だから労働党大躍進、とは評価できない。

 つまり政権末期の保守党のように高物価の怒りに代わって、寛容な、あるいはルーズな移民政策でアフリカ系不法移民の激増・失業率増・犯罪増加などを招けば、すぐに労働党の支持率は落ち、次回選挙での大敗による野党転落となるだろう。「リフォームUK」の大躍進は、それを暗示する。


スコットランド独立の気運は消えた​

 最後に、リベラル保守の自由民主党は、人気を失った保守党の受け皿となり、前回の15議席から71議席と激増した。こちらも、保守党は次回に奪還する余地は大きい。

 またスコットランド独立・EU加盟を掲げるスコットランド国民党は同43議席減の9議席に留まり、当面のイギリスの政治地図からは消え去ることになる。

 明日は、当初の泡沫の予測を覆して、大統領選決選投票で大勝したペゼシュキアン氏当選のイラン大統領選挙を取り上げる予定だ。


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