安い魚から大型高級魚が大量に作れたら、という夢がかなうかもしれない。

 

サケ科の王者キングサーモン​

 東京海洋大学の吉崎悟朗教授らの研究チームは高級なサケ、マスノスケ(キングサーモン)の卵や精子をニジマスに作らせる技術を開発した。マスノスケを含む遡上性のサケは生涯に1度しか卵や精子を作れないが、ニジマスを代理の親魚として使えば何度も作れる。サケの養殖や品種改良を効率化できる。

​ サケの仲間であるマスノスケは、サケ科の王者である(だからキングサーモンと呼ばれる)。普通のサケ(シロザケ)やマス(サクラマス)よりも大型で、全長80~150センチ、体重は大きなものでは60キロを超える。主にアラスカやカナダの川に遡上し、釣り人の最高人気の魚だ(写真)。味も最高で、脂ののったものはステーキや寿司で人気が高い。​

 


毎年産卵するニジマスに年1回しか産卵・受精しないサケを産ませる​

 サケは成魚になると、海から生まれ育った河川などに戻って産卵をする。性成熟には3〜7年ほどかかる。精子や卵は生涯で1度しか作れず、産卵を終えると雌雄どちらも死ぬ。

 ところが同じサケ科でも、食卓におなじみのニジマス(写真)は毎年産卵できる能力を持つので、養殖が盛んだ。

 

 

 研究チームは遺伝子を改変できるゲノム編集技術で自らの生殖細胞を作らないニジマスの稚魚を作った。その稚魚に、サケから精子や卵のもととなる「生殖幹細胞」を取り出して移植した。

​​ 稚魚はオスでは1歳、メスでは2歳で性成熟し、サケの生殖細胞を作るようになった。生殖幹細胞はオスに移植すれば精子、メスに移植すれば卵を作り、受精させると健康なサケが誕生した(写真は誕生したマスノスケの稚魚)。​​

 

 


安定的に美味しい魚の生産が可能に​

 このニジマスはサケの精子や卵を毎年作り続け、4歳になるまでに作る生殖細胞の総数は通常のサケに比べ、卵は約5倍の5000個程度、精子では約2倍の1兆個程度に増えていた。移植した生殖幹細胞によって出来る精子や卵の量や回数は、代理となる親魚に制御されることが分かった。

 サケの養殖して放流するには毎年、大量の親魚が必要になる。今回の新技術でニジマスを代理の親魚とすることで手間を減らせ、従来よりも短期間で次世代の個体を得られる利点もある。

 一般的に魚の品種を開発するためには5世代の交配が必要とされ、15〜20年程度かかるが、新技術を使えば5〜10年程度に短縮できると見込む。

 吉崎教授は「希少性の高い高級魚などの品種開発や養殖技術に応用すれば、安定的に美味しい魚を供給できる手法になり得る」と話す。食用魚だけでなく、絶滅が危惧されている魚類の保護にも応用したい考えだ。

 成果をまとめた論文はアメリカの科学誌『サイエンス・アドバンシズ』5月25日号に掲載された。


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