​ 日銀が金融緩和策の一環として2010年から市場で買い入れ始めたETF(上場投資信託)は13年の異次元緩和開始から一段と増え、今春にも止めた模様だが、その含み益は膨らんでいる。株高を背景に、時価は70兆円を超え、含み益も2月末時点で約34兆円にも達している(グラフ)。​

 

 

ETFは30兆円以上の巨額の含み益​

 ETF購入は、前場で大幅下げになった日の後場に購入するから、どんな投資家も目指す「安い時に買う」を地で行っていることだ。ただこのことは、誰もが頭で分かっているけれども現実に市場が大幅安に見舞われている時、怖くてなかなか買えるものではない。自己責任で行う個人投資家でもそうだから、後で思わぬ損失を出して責任を問われかねない機関投資家ならなかなかできないことだろう。

 それを、日銀は「金融緩和のため」と淡々と実行してきた。その結果が、思わぬ巨額の含み益だ。


2回の円買い・ドル売り為替介入で使ったドルの取得コストは101円余り​

 そんな含み益は、為替でも生じているのではないか、と思っていたら、5月9日付日経新聞マーケット総合欄のコラム「大磯小磯」で、ペンネーム「和悦」氏がそれをデータを基に解き明かしてくれた。

​ 日銀は、急激な円高や円安局面で財務省の指示で市場介入を行う。去る4月29日と5月2日に、投機筋によるしつこく浴びせられる円売り・ドル買いに、日銀は日本経済防衛のためにそれぞれ推定約5兆円、約3兆円の大規模円買い・ドル売り介入を行った(写真=4月29日の介入時の円・ドル値)。​

 

 

​ 円買いの原資は、かつて円高時にドル買い・円売りで買ったドルである(写真)。円高時にドルを買ったのだから、取得コストは平均101円70銭だ。

 


2回の為替介入で3兆円弱の差益​

 為替介入のデータの公表された1991年から今年3月末までに行った円売り・ドル買いの累計額は79兆8237億円(取得コストは前記)、円買い・ドル売りのそれは14兆0674億円(取得コストは平均139円40銭)だ。1ドル当たり37円70銭という膨大な差益を、政府はドルで保有していた。そのドル建て差益は、円売り・ドル買い時の1ドル=160円で換算すると、109兆円余りになる。

 つまり今年度の年間予算と匹敵する巨額の差益を持っていたのだ(ただ差益は、各年度の国庫に繰り入れられていて現実に日銀にあったわけではない)。

 さて、そのうえで4月29日の円買い・ドル売り介入である。この介入で、1ドル当たり160円から101円70銭を差し引いた58円30銭も、介入で儲けた。5兆円の介入なら約1兆8200億円も儲けた勘定だ。

 5月2日の介入時の相場水準では、約1兆0500億円も稼いだ。


どんなトレーダーも手にできない巨額な実現益​

 どんな為替トレーダーも手にできない実現益だ。個人のFXトレイダーにしても夢のような利益に違いない。

 ETFと同様、日銀は儲けようと株を買ったり、ドル売りしたりしているのではない。国策・国家利益のためだ。

 しかし日銀の行った取引は、まさにトレードの常識に沿って淡々と行われたものに過ぎない。ここに、投資・投機の極意がある。繰り返すが、頭で分かっていても、誰でも・いつでもできるわけではないのだが。


昨年の今日の日記:休載​