​ 過去に地球は全球が凍結する「スノーボール・アース」になったことがある。むろん熱帯も、だ(スノーボール・アースの想像図)。​

 


全球凍結、何が起こったのか?​

 こうした全地球規模の凍結状態は、少なくとも2回、どちらも6億年以上前に起こった。世界が巨大な氷の球に変わってしまうなど、地球温暖化が憂慮されている今、とうてい想像できないが、いったい何が原因で起こったのだろうか。

​ 原因として、これまで異常な火山活動から超大陸の破壊まで様々な仮説が唱えられてきたが、2月9日付けのアメリカの科学誌『Science Advances』に発表された研究は、これまでほぼ無視されてきた新たな可能性について検証している(写真=論文の巻頭)。​

 

 

 小惑星の衝突だ。
 

衝突の噴出物で生成されたエアロゾルが成層圏を覆って​

​ 巨大小惑星が高速で地球に衝突すると、大量の岩石が空に向かって噴き飛ばされる。この噴出物の多くは硫黄を含む鉱物で、成層圏で日光を反射するエアロゾルとなる。成層圏に十分な量のエアロゾルがあると、地球はまたたく間に寒冷化する。6600万年前に地球に衝突した直径約10キロの巨大小惑星も、エアロゾルを作り出し、恐竜などを絶滅させた(衝突の想像図)。​

 

 

 数十億年の歴史の中で、地球は暑い時代や寒い時代を経験してきたことが、すべての科学者が、地球が完全に氷に覆われたことがあるという説に同意しているわけではない。ただそれでも例えば、氷河によって形成され、運ばれたと考えられる圧縮された堆積物の層や岩石の破片が赤道付近で見つかるなど、奇妙な古代の地質学的特徴がたくさん存在する。


寒冷になっていた時に衝突すると​

 これらは地球が新原生代のクライオジェニアン紀(7億2000万年前~6億3500万年前)に、少なくとも2回、雪と氷に包まれた証拠だと多くの人が考えている。その原因が巨大小惑星の衝突だったとする仮説は妥当なのか。

 今回の研究で科学者らは、成層圏に硫酸塩エアロゾルを様々な濃度で注入するシミュレーションを行った。巨大な小惑星の衝突によって発生すると考えられるエアロゾルの状態を、地球がうだるほど暑かった時期から、かなり寒冷になった時期まで、過去の様々な地球で検証した。

 その結果判明したのは、暖かい時期には凍りつくことなく小惑星の衝撃に耐えられる一方、既に気候が寒冷になっている場合は、地球外からの一撃によってスノーボール状態に追い込まれる可能性がある、ということだった。


条件を様々に変えてシミュレーション​

 小惑星衝突仮説を検証するために研究チームの行ったシミュレーションは、地球の歴史上、大陸、海洋、大気の状態がそれぞれに異なる様々な時期、すなわち産業革命以前の温暖な時代(1850年以前の「中世の温暖期」)、極寒の最終氷期極大期(LGM=約2万年前)、白亜紀のような高温の時代(1億4500万年前~6600万年前)、そして新原生代(7億5000万年前)についてだ。

 これらの時代の成層圏に、6600万年前の衝突から妥当とされる66億トン、2000億トン、2兆トンの二酸化硫黄ガスを注入し、何が起こるかを観察した。

 その結果、中世の温暖期や白亜紀のような温暖な時代には、どのような条件下でも完全に氷に覆われた世界は現れなかった。しかし、より寒冷な新原生代とLGM期に2000億トンの二酸化硫黄を加えた時には、10年足らずで世界中の海が氷で覆われることを確認できた。


衝突の痕跡を見つけるのは困難か​

 太陽光が長期間遮られると、地球は冷え、氷に覆われた領域が広がる。氷は太陽光を宇宙空間へ反射するため、地球はますます冷え、より多くの氷が作られる。そして、氷がある量に達すれば、もはや地球はどうしようもなくスノーボールになっていくというのだ。

 この仮説の確証を得るには、スノーボールアースが出来た時期の、6600万年前の小惑星衝突で形成されたチクシュルーブ・クレーター(直径約180キロ)と同程度のクレーターか、衝突によって噴出した硫黄を含む残骸を見つけるしかない。しかしクライオジェニアン紀以降も、地球は風化による浸食、火山活動、地殻変動、度重なる氷河期、洪水などを受けてきた。

 その痕跡を見つけるのは、困難を極めるだろう。

 

昨年の今日の日記:「晴れた日に立川の昭和記念公園を散策、ソメイヨシノ、チューリップなど壮麗な花の海と絨毯」