現代の人々の難病には、遺伝性の清染色体異常に基づくものがある。染色体を余分に持っていたり、欠損していたりする患者で、遺伝性疾患のため治療はできない。

 古代人にも現代人と同じ遺伝性疾患があった。中にはかなり成長した個体もあった。


新技術を開発し古代ゲノムを測定​

 イギリス、フランシス・クリック研究所に率いられた研究チームは、サマセット、ヨークシャー、オックスフォード、リンカーンの5つの遺跡で発掘した人骨から新技術を用いて、古代ゲノムの異数性(細胞に染色体が余分にあったり欠落したりすること)を持つ6人の個体を同定し、英科学誌『Communications Biology』1月11日号で報告した(写真=発掘調査の様子。一番下の写真は発掘したオックスフォード、マグダレン・カレッジのロングウォール・クワッドの中世墓地)。

 

 

 

 

 ヒトのDNAは、1対の染色体に配置されている。性別を決めるる性染色体はXとYがあり、通常、女性は2つのX染色体(XX)を持ち、男性はX染色体とY染色体(XY)を持っている。ところが「異数性」が性染色体で生じると、思春期前後の発達の遅れや身長の変化などの違いや様々な障害を引き起こす。

 生体のゲノムと異なり古代ゲノムは、時間の経過と共に染色体が変質したり微生物など汚染されたりしている。研究チームは、古代ゲノムの染色体数をより正確に測定する新しい技術を開発し、その結果、研究チームは、次の事例を同定した。


ターナー症候群、ヤコブ症候群、クラインフェルター症候群、そしてダウン症​

​・約2500年前(鉄器時代)に生きたモザイクターナー症候群(女性のX染色体の1つが欠損または部分的に欠損し、低身長が特徴)の女性(写真)。​

 

 

​・中世(約250年前)のヤコブ症候群(男性が余分なY染色体を持ちXYYとなる。高身長の傾向があり、軽度の行動障害や学習障害を伴うことが多い=写真)。​

 

 

・クラインフェルター症候群(X染色体を余分に持ちXXYの男性、高身長で手脚が長く、X染色体を2つ持つため、乳房が発達するなと女性化現象が起こる)の3人。様々な時代に及んでいた。

・鉄器時代のダウン症乳児(21番染色体のコピーが2本ではなく3本ある)。


6個体全員が社会慣習に従って埋葬​

 前記のようにクラインフェルター症候群の3個体は、様々な時代に及んでいたが、全員がいくつかの類似した特徴を持っていた。3個体とも、当時の平均よりもやや身長が高く、半面、思春期に成長遅滞の兆候を示していた。

 またターナー症候群の女性個体は、18~22歳の推定年齢にもかかわらず、思春期を経ても月経を始めた可能性は低いことが分かった。

 それでも6個体全員が当時の社会の慣習にしたがって埋葬されており、差別的な扱いを受けていなかったようだ。しかし彼らの生活に光を当てるような副葬品は見つからなかった。

 亡くなるまでに不自由だったろうけれど、当時の社会はそうした遺伝性疾患の個体も社会の中に包んでいたのだ。


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