昨年のナゴルノカラバフ戦争で、ロシア主導の旧ソ連圏の軍事同盟「安全保障条約機構(CSTO)の加盟国でありながら、ロシアに見捨てられた形で敗北したアルメニアが、また1歩、ロシア離れを進めた。


CSTOへの問い合わせの回答なければ脱退と明言​

​ 3月12日、首都エレバンで開いた記者会見で、アルメニアのパシニャン首相は、CSTOがアルメニアの領土防衛を支援しない場合、CSTOから脱退するとの考えを初めて公表した(写真=2022年11月、アルメニアの首都エレバンで開かれたCSTO首脳会議で、正面中央のパシニャン首相と肩を並べて着席しているプーチン。1年後には劇的に変わった)。​

 

 

 ロシアのインタファックス通信などによると、パシニャン首相は記者会見で「CSTOに対して、アルメニアでの責任の領域がどこなのかという問いに答えるよう要求している」と指摘した。そのうえで「回答がなければ、脱退する」と明言した。


フランスとの軍事協力強化​

 同首相は2月23日放送された、フランス訪問中のフランスのテレビ局のインタビューで、CSTOへの参加を凍結したと明らかにしていた(2月28日付日記:「アルメニア、ロシア主導の軍事同盟CSTOへの参加凍結、揺らぐ中央アジアのロシア支配」https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202402280000/を参照)。これ以前にもアルメニアは、2023年11月のCSTO首脳会議を欠席するなど事実上、活動を中断していた。

​ CSTOから脱退すれば、ロシアとNATOとの間の中立国になるが、事実上、NATO寄りに軍事姿勢を強めることになる。実際、パシニャン首相の前記のフランス訪問では、NATO加盟国のフランスとの軍事協力をさらに強めた(写真=フランスのマクロン大統領と会談したパシニャン首相=右)。​

 

 

 アルメニアでは、パシニャン首相ばかりかロシア離れは鮮明で、2月末には議会のシモニャン議長が欧州連合(EU)加盟を検討する可能性も示した。


プーチンがいつまで傍観するか​

 また12日の記者会見で、パシニャン首相はロシア軍が担当してきたエレバンの国際空港の警備について、8月1日からアルメニアが独自に実施するとロシア側に通告したと明らかにした。ロシア軍は1992年の両国間の合意に基づいてエレバンの国際空港を警備してきた。国際空港がロシア軍に抑えられていれば、いつロシア軍機が襲撃してくるか分からない。ロシアは、そうした思惑もあってアルメニアの国際空港を「警備」してきたが、ここから明確に追い出されることになる。

​ ただ、大統領3選が目前のプーチンが、いつまでアルメニアの反ロシア姿勢を傍観しているか、不透明だ。前掲日記でも書いたが、アルメニアはテロ国家ロシアと国境を接していない(地図)。ウクライナのような直接の武力攻撃を受ける危険は少ない。​

 

 

 しかも今、テロ国家ロシアはウクライナの軍事侵略で手いっぱいの状況だ。


狡猾なプーチン、アゼルバイジャン軍に戦争させる手も​

 だが、ナゴルノカラバフ戦争でアルメニアが事実上支配していたナゴルノカラバフを奪い取ったうえ、他になおアルメニアの領土の一部を占領しているアゼルバイジャンを手先に使う手はある。アゼルバイジャン軍の指揮権をロシア軍が握り、アゼルバイジャン軍に戦闘をさせる――狡猾なプーチンなら、やりそうな手口だ。

 一方、対するアルメニアは、軍事協力を強めるフランスと距離的にかなり離れていて、直接の支援は受けにくい。

 薄氷を踏む思いで、アルメニアの安全保障を注視していきたい。もしアルメニアが離脱すれば、次はカザフスタンが後に続くだろう。


昨年の今日の日記:「アメリカの金融システムを揺さぶったシリコンバレー銀行の破綻;日本への波及に懸念」