​ かつての凄まじいばかりの反ワクチン・キャンペーンで、子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV=電子顕微鏡写真)の感染を防ぐワクチンの接種が、日本ではすっかり打ち捨てられてしまった。​

 

 

反ワクチン・キャンペーンで日本の接種率は1%以下​

 過日、娘さんが私立中学に合格したお母さんと話していたおり、これを機に抗HPVワクチンを接種させたら、と勧めたら、娘には受けさせたくない、と気乗りのしない返事だった。

 そのお母さんは、有名私大K大の卒業生で、非科学的な女性ではない。それでも、後ろ向きなのだ。かつての反ワクチン・キャンペーンの後遺症の大きさを改めて思い知った。

 子宮頸がんを引き起こすHPVは、性交渉などを通じて感染する。早いうちにワクチンを打っておけば、HPVの感染を回避でき、したがって子宮頸がんリスクを大きく減らせる。

 しかし日本では、かつてのワクチンの薬害禍キャンペーンで、2013年に接種対象者への個別通知をやめ、厚労省も接種に後ろ向きだったために、接種率は1%以下という、先進国でも未曾有の低接種状態が長く続いた。

 

年間1万人を超える発症者、3000人に近い死亡者​

 2022年に推奨を再開したものの、09年度生まれの女性の初回接種率はその時点で8.1%に留まっている。その背景には、23年度の厚労省の調査で接種対象者の約38%もが「健康被害が起きるのではと思っている」という理由無き不安感だった。非科学的な反ワクチンキャンペーンの影響は、今も続いているのだ。

​​ その結果が、罹患者数は2019年で1万0879人、死者数は2020年で2887人にも達している。欧米諸国の2~3倍の発症率、死亡率となっている(写真)。​​

 

 

 欧米各国は、ワクチンの接種効果を早くから認め、2000年代後半頃から接種を本格的に始め、20年にはスウェーデンの研究チームが10~16歳への接種でがん発症リスクが約9割減ると発表した。この間、接種にずっと後ろ向きだった日本だけが高い発症率と死亡数となっている。

 

スコットランドの調査では12~13歳でのワクチン接種者の発症はゼロ​

 ワクチンの接種効果の大きさは、長期の疫学調査でもはっきりしている。

 イギリス、スコットランド公衆衛生局(PHS)とエディンバラ大学、ストラスクライド大学の研究グループは、スコットランドの医療データを基に、1988年~96年に生まれた約45万人の接種と発症の関係を調べた成果を1月に発表した。

 12~13歳で接種を受けた約3万人には、接種回数に関係なく子宮頸がん発症者はゼロだった。遅れて14歳~22歳で3回接種を受けたグループでは10万人当たり3.2人の発症者がいた。それでも非接種者の8.4人より低かった。

 結果は明らかだ。性交渉の始まる前に接種を受けた女性のリスクは劇的に減らせるが、年齢が上がるほど、性交渉でウイルス感染するためか、効果は小さくなる。それでも、しないよりははるかにマシなのだ。

​ 欧米諸国も、それ以前から積み上がっていた科学データを重視し、接種を積極化している(写真)。オーストラリアでは接種率は8割に達する。​

 

 

非科学的なキャンペーンをはったマスコミ​

 そうしたワクチンの効果が蔑ろにされてきたのは、マスコミ、特にNHKの非科学的な反ワクチンキャンペーンだった。ワクチンで痛みが起こると針小棒大にキャンペーンされたが、その後の関係で因果関係の無いことが分かった。しかしそのことを、報じるマスコミは稀だった。

 一部の女医の献身的な努力があっても(18年3月18日付日記:「現代の『迷信』=子宮頸がん『ワクチン禍』に科学とエビデンスで闘う村中璃子氏に『ネイチャー』元編集長を記念したジョン・マドックス賞;遅ればせながら」を参照)、現在の低接種状態と一般の誤解なのだ。

 実は危険ではなくとも、危険とリスクを伝える迷信の声の方が、安全とデマを否定する科学的な声を圧倒するのだ。

 ヒステリックにあの非科学的キャンペーンをはったNHKのプロデューサーとディレクターが責任をとったとは知らない。いかに多くの若い女性とその親たちを悲しませたか、罪深さを思い知るが良い。


昨年の今日の日記:「テロリスト国家ロシアの周辺国に及ぶ不安定化の波(下):親欧米モルドヴァに対しロシアが政権転覆図る;ナゴルノカラバフ紛争再び?」