香港政府は8日、スパイ行為などを取り締まる国家安全条例案を公表し、立法会(議会)で審議を開始した。

​ 国家への反逆やスパイ行為、外部からの干渉、国家機密の窃盗、扇動を取り締まる規定を盛り込んでいる(写真=香港旗と監視カメラ)。

 

 香港立法会は、2021年12月の翼賛選挙で、民主派が一掃され、ほぼ親中派だけになったから、おそらく間もなく可決される。これにより、スターリニスト中国本土並みに市民的自由がほぼ圧殺される。


記念像撤去に反対だけで逮捕・実刑​

 それを一足先に先取りしたような動きが、このほど明らかになった。

 香港中文大学の法学博士課程の学生、曽雨璇(そ・うせん)さんが、昨年の刑期満了後に行方不明となり、スターリニスト中国に送還されたのだ。

 娘の身を案じて香港に渡った母親も、帰国後に音信不通となっている。

​ 香港からスターリニスト中国へ強制送還されたとすれば、初のケースだ(写真=曽さんの行方不明を報じるネット新聞画面)。​

 

 

 曽さんは、昨年6月に6.4市民革命(天安門事件)で殺害された学生を追悼するための記念像が撤去されたことに反対する構えを見せ逮捕され、懲役6カ月の実刑で服役していた。


昨年10月、刑期満了後にも外に姿を見せず、本土に送還が判明​

 ところが刑期満了の10月、出迎えで刑務所の外で出所を待っていた友人たちの前に姿を現さなかった。当局によると、出身地の中国本土に送還されたという。

 民主法制のもとでは、いったん刑に服した後では、再び訴追されることはない。しかしスターリニスト法制では、何度も、無期限に逮捕が繰り返される恐れがある。

 曽さんは、法の支配と香港の有名な判例法の法体系を学ぶために、香港に留学してきた。ここで、スターリニスト中国では味わえない自由の空気に触れたが、それもほんのわずかな間だった。2020年の香港国家安全維持法で、自由な意見表明とデモを封じられた。

 曽さんのスターリニスト中国への送還は、まさに香港の「本土化」の完成を意味している。今後、本土からの留学生は、本土と同じ行き詰まる空気の中で学ばなければならない。


「1国2制度」の建前さえ打ち捨てられる​

 スターリニスト中国は、これまで世界中で目を付けた人物をスターリニスト中国に不法拉致していた。

​ 思い出されるのは、スターリニスト中国への批判的な本を販売していた銅鑼湾書店の株主や幹部5人が、スターリニスト中国に拉致された事件である(写真=拉致された後、市民の抗議で香港に戻った林栄基店長。その後、台湾に亡命)。5人の1人のスターリニスト中国出身のスウェーデン人は、滞在先のタイから拉致された。​

 

 

 ただ、こうしたケースは、スターリニスト中国の警察活動の結果で、彼らが目を付けた「反中国分子」を拘束・拉致した。香港当局が拘束した人物の強制送還まで行っていない。いちおう「1国2制度」の建前を尊重したのだろう。

 今回の曽雨璇さんのケースで、その建前さえ打ち捨てられた。もはや「1国2制度」など存在しない。

 スターリニスト中国に送還された曽さんの身が危ぶまれる。


昨年の今日の日記:「テロリスト国家ロシアの周辺国に及ぶ不安定化の波(上):親ロ派政権ジョージアの大規模デモで反民主法案をつぶす」