​ アメリカ大統領選の共和党候補が事実上決まった。当初の予測どおり圧倒的な強さを見せていた前大統領トランプが5日に全米15州で一斉に行われたスーパーチューズデーで14州を制覇し、ニッキー・ヘイリー氏を抑えて勝った(=スーパーチューズデーとそれまでの共和党予備選の結果)。​

 


あらゆる面からトランプに劣後、トランプへの挑戦は冒険そのもの​

 巨人ゴリアテに挑んだダビデのように、1人トランプに向かったニッキー・ヘイリー氏は、1州バーモント州しか勝てず、共和党大統領候補選びから撤退した。

​ ヘイリー氏の苦戦は、当初から予測されていた。それでも初戦からトランプに挑み続け、北東部のニューハンプシャー州で善戦し、首都ワシントン特別区では勝った(写真=首都ワシントンで勝って喜ぶヘイリー氏)。​

 

 

 トランプは、前大統領としての知名度と実績をひっさげ、1年以上前から予備選準備に全米を駆け回っていた。対してヘイリー氏は、知名度でトランプにはるかに後れを取っているうえ、共和党予備選レースに名乗りを上げたのも昨年2月と出遅れた。元国連大使と前サウスカロライナ州知事の実績しかなく、国政に関与したことはなかった。最初から、勝負にならない戦いでもあった。

 それでもフロリダ州知事のロン・デサンティス氏らが早々と予備選から撤退する中、独りトランプに挑み続けた。


共和党内きっての国際協調派​

​ 民主党のバイデン現大統領、そして共和党有力候補のトランプと並べれば(写真)、僕にはヘイリー氏が一番好感が持て、秘かに大統領になることを期待していた。​

 

 

 国連大使を務めたこともあり、国際感覚に優れ、また西側諸国と協調を強める政策を示し、共和党内では最もウクライナ支援に熱心だ。保守派だが人工妊娠中絶問題にも寛容で、共和党内では最もリベラルと言える。実業家だから、経済感覚も優れている。

 実際、その主張の穏当さが評価され、比較的リベラル色の強い首都ワシントンとバーモント州で、トランプを抑えた。トランプが候補では、無党派や共和党リベラル派を引きつけられず、11月の本選でバイデン大統領に勝てないという層を引きつけた。

 それでも地力で劣るヘイリー氏は、共和党予備選から撤退した。アメリカの選挙は、大集会を頻繁に開いたり、テレビ広告を集中的に流したりとカネがかかる。負け犬の明らかなヘイリー氏に、もう選挙用の寄付が集まらないからだ。


2028年の大統領選を見据えて​

 逆に、当初から誰もがトランプには勝てないと思っていた共和党予備選に、他の有力候補が次々に撤退した中で、独り残って闘い続けたのは、2つの目的があったからだ。

 まずトランプは、4つの裁判の被告であり、先の最高裁判決で大統領選挙立候補資格を認められたものの、場合によっては途中で予備選レースから脱落する可能性がゼロではなかった。その場合、最後まで踏みとどまっていれば、ヘイリー氏が共和党大統領候補に指名される可能性があった。

 次に今回敗れても、全米のメディアに連日のように映像と名前が流され続けたことで、十分に知名度を上げられ、2028年の共和党の有力候補として躍り出ることができた。


知名度を上げて28年大統領選の勝ち目は十分​

 次の28年の大統領選挙では、トランプもバイデンも立候補しない。どちらの候補も、当選すれば2期務めることになり、それ以降は立候補できない。敗れれば、敗れた方は次の大統領選に立候補できるが、いずれも高齢で、現実性はない。民主党が誰を立てるかにもよるが、共和党がヘイリー氏を担げば、若いから(28年時点でも56歳)勝ち目は十分にある。

 まずヘイリー氏なら、女性であり、インド系でもあり、アメリカ社会の多様性を完全に反映できる。前述したように、国際感覚に優れているから、NATO諸国や日本などと固い同盟関係を打ちたてられる。場合によってはトランプが大統領当選後に離脱したTPPへの復帰も展望できる。

 またサウスカロライナ州知事も務めたから、内政経験も十分だ。

 それがこの11月に実現できないのは、なんとも残念である。


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