​ あのアップルがEV(電気自動車)開発を断念した(写真=アップルのEV試作車)。2月27日、アメリカのブルームバーグ通信など複数のメディアが報じた。​

 


10年越しの開発、ついに実らず​

 アップルのEV開発はすでに10年近く前に報じられ、EV専業のテスラも戦々恐々の思いで見守っていた。あの世界的IT企業のアップルがEV市場に参入すれば、自動運転とITとを結びつけ、自動車業界に大きなインパクトを与えるのは必至とみられていた。

 その10年越しのEVを市場投入の前に断念したことは、現在のEV市場に大きな障壁が出来上がっているからだ。

 その前段として、アップルは生成AIの競争に出遅れていたことがある。開発には巨額の資金と人的資源が必要で、EVに振り向ける余裕は乏しくなっていた。

​​ またEV投入に一体として開発していた自動運転技術が、走行試験距離を伸ばしてもなかなか完成していなかった。その間に、EV市場が成熟化しつつあり、よほど革新的でない限り、今から参入しても勝機は乏しくなっていた。自動運転技術は革新技術だが、それ以上に世界の市場はテスラ(下の写真の上=テスラのモデルX)とスターリニスト中国の比亜迪(BYD;下の写真の下=BYDのATTO3)に牛耳られつつある。​​

 

 


価格高止まり、高い環境負荷​

 そして、EVが実は意外に環境負荷のかかる自動車であることも明らかになってきた。

 ボディーを作る鉄鋼とアルミニウムを除くと、EVはガソリン車の6倍もの鉱物資源を必要とするという。その多くは、コストの3割を占めるとされる電池だ。

 それらは、アフリカ、南米、アジアなどの新興国に偏在している。それらの鉱物の採掘には大量の労働力が必要で、奴隷労働も疑われ、さらに資源ナショナリズムの高揚から調達の難しさは増している。さらにまたその採掘・精錬の汚染も大きい。

 そのEV用電池のコストがなかなか下がらず、EV価格の高止まりを招いていて、欧米とスターリニスト中国で急速に売り上げが伸び悩んでいる。


EV出遅れのトヨタは正しかった?​

 巨大なアメリカ市場では、トヨタ車の特異なHV(ハイブリッド車)、PHV(プラグイン・ハイブリッド車)がEVを上回る売れ筋となっている。ひょっとするとEVではるかに出遅れているとされたトヨタの戦略は正しかったのかもしれないのだ。実際、アップルがEV撤退を報じられると、アップル株は逆に上がった。市場も歓迎したのだ。

 あのアップルも断念したEV、ホンダと組んでこれから市場に参入しようとするソニーも、戦略の見直しを迫られるかもしれない。


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