東京株式市場は、連日活況に湧いている。

 日経平均は連日のように33年ぶりの戻り高値を更新しているから、個別株でも新高値ラッシュだ。


株高に湧く中にTOBラッシュ​

 こういう時、新たに株を買いたい投資家は悩ましい。さらに値上がりすると思って買うと、それが天上で、その後はずるずると安値となり、長く塩漬け、というケースは多い。

 しかし今が高値と見送ると、さらに上値を追い、けっきょく買い損なってほぞをかむ、ということも多い。

 その高値の中、さらにプレミアムを付けて市場から株を買い集めようというTOBも、また盛んだ。


ベネフィット・ワン買収合戦は8割プレミアムをつけた第一生命HDが勝利​

​ 例えば、第一生命HDは8日、医療情報サイト運営のエムスリーと買収合戦となっていた福利厚生代行のベネフィット・ワンを買収することで同社の親会社パソナグループと合意した。最初にTOBを発表していたエムスリーによる公表日のベネフィット・ワンの前日終値と比べ、プレミアム(上乗せ率)は実に8割を超える()。​

 

 それだけ価格上乗せしても、なお被買収会社の魅力があるということなのだろう。

 それは、被買収会社、すなわちこの場合ではベネフィット・ワンの株主には美味しい話だ。通常、よほどのサプライズがない限り、8割も株価が上がることは無いからだ。


約20年来持ち続けたJSRという会社​

 しかしTOBでも、時には複雑な思いをすることがある。

​ もう20年以上も持っているJSR(写真=港区の同社の入るビル)という会社の株がある。買った頃、「日本合成ゴム」という社名で地味な合成ゴム製造会社だった。しかし同社はかなり早い段階で多角化経営に踏み出し、まだ草創期だった液晶の部材開発を展開した。​

 

 

 僕は同社の先進性に惚れ込み、株主になった。購入時、800円ほどだった株価は、その後ぐんぐん上昇し、4000円くらいで横ばいになった。これ以上の高値には、さらに新規事業で成長する必要があった。

 それでも僕は売らなかった。買値の5倍近くなっていたのだが。
 

産業革新投資機構が買収​

 何よりも同社の配当政策が、ありがたかったからだ。ほぼ毎期増配し、昨年3月期には期末35円、年間配当70円を出していたのだ。買値から見ると、配当利回りは8%以上になっていた。

 これは、どんな金融商品にも無い高利回りであった。

​ ところが、である。昨年6月、官民ファンドの産業革新投資機構(JIC=写真:本社の入る港区のビル)が同社の全株をTOBで買収すると提案したのだ。買収価格は1株4350円で、買い付け提案日の終値を3割弱上回る条件だった。​

 


古くから持ち、ずっと持ち続けたかった株主には災い​

 僕には、JSR株を手放すつもりは毛頭なかった。それでもJICがTOBを始めれば、売らなくとも最終的にはスクイーズアウトと言って、強制的に買い取られてしまう。

 悪いことに、JSR社は買収提案を受け入れた後、資産の外部流出を抑えるために無配と決めた。だから昨年9月の中間決算では配当は出なかった。

 TOBは、株主に良いことばかりではない。僕のように、長年持ち続け、会社の成長と配当を楽しみに、今後も半永久的に持ち続けたいと思っていた株主には災いでもある。

 第一生命HDのベネフィット・ワンの買収ニュースを横に見て、そんな苦い思いを噛みしめている。

 ちなみに僕がTOBに遭うのは、JSRで4社目だ。それだけ盛んになっているのだ。


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