​ ノーベル平和賞の選考委員会は、2019年度のノーベル平和賞授賞者にエチオピアのアビィ・アハメド・アリ首相(写真=受賞を喜ぶアビィ首相)を選んだことを、今は深く後悔しているのだはなかろうか。​

 


ノーベル平和賞受賞の翌年に内戦引き起こす​

 アビィ首相のノーベル平和賞の受賞理由は、紅海に面した旧領土のエリトリアとの長年の戦争を終結して和平を実現したことだが、その1年後の20年11月、エチオピア北部のティグレ州のティグレ人民解放戦線との内戦を始めた。この内戦で、一時はティグレ人民解放戦線は、ティグレ州境を超えるまでに進出したが(​写真​=ティグレ人民解放戦線が捕虜にした政府軍兵士と民兵)、けっきょく優勢な軍事力で、占領されていた州都メケレを回復した。

 

 

 この内戦で、民間人を含め数百人が死亡、4万人あまりが難民化した。この内戦については、20年11月19日付日記:「かつて飢餓と内戦に苦しんだエチオピアで、ノーベル平和賞受賞の首相のもと再びの内戦が勃発」で述べた。

 僕は、この日記でアビィ首相へのノーベル平和賞に対して疑問を呈した。アフリカの国家なので、とかく指導者は強権化する。だから国内の異部族との軋轢でも、軍事力を平気で行使するのだ。


ソマリランドという未承認国家​

 そのアビィ首相が、またまた火種を作った。

 エチオピアの東、インド洋に面した所にソマリアという破綻国家がある。かつてオガデン戦争で、当時エチオピアを支配していたメンギスツ共産主義政権はソ連とキューバから軍事援助を得て、このソマリアと戦争した。敗れたソマリアは、独裁的支配者が追放され、その後、破綻国家になった。今も、国家統一はできず、軍閥が各地で支配している。

​ ところでこのソマリアの北西に、長年ソマリアの支配の及ばない未承認国家がある。ソマリランドという。旧ソマリアの北西部が、1991年5月、同国からの一方的独立を宣言して成立した(首都ハルゲイサ=写真)。独自の通貨やパスポートを発行し、独立国家として機能しているが、国連加盟国の中で承認した国はない。​

 


今度はソマリアと軋轢​

 そのソマリランドを、アビィ首相のエチオピアは、今年1月、世界で初めて国家承認し、外交関係を樹立した。

​ 目的は、エリトリアの独立で海への道を断たれ、内陸国家となったエチオピアが、海への出口を求めたことだ。正式に公表されていないが、ソマリランドはエチオピアに対し、アデン湾に面したベルベラ港(写真)周辺の海岸の20年間の使用を認め、見返りにエチオピア航空株の一部を譲渡し、またソマリランドを国家承認するという密約があったという。​

 

 

 今もソマリランドの領有権を主張するソマリアは、もちろんこれに猛反発した。

 エジプトなどの周辺国も反発している。

 いきなり戦争にはならないとしても、アフリカ北東部に緊張をもたらすアビィ首相の振る舞いは、ノーベル平和賞授賞者にふさわしいとは言えないだろう。


昨年の今日の日記:「『北の分水嶺を歩く』(工藤英一)を読む、植村賞授賞の野村良太氏を触発した初の北海道分水嶺走破の記録」