今世界中の人たちで使われている言語は、約7000言語ほどあるとされる。
農耕牧畜が世界中に広がる前は、もっとあったと考えられる。農耕民の世界各地への拡大で、在来の非農耕民は圧迫されて人口を減らし、あるいは農耕民に吸収されて言語が使用されなくなり滅んで、死語となった。
世界最古の文明を作ったシュメール語、エジプト語も死語
1月25日付日記:「タリム盆地の砂漠に孤立した謎の『トカラ語』とミイラ遺体」で紹介した謎の言語のトカラ語も死語である。
しかし死語になった言語は、数え切れないほど多くあった。
有名なところでは、誰もが知る人類最古の文明であるシュメール文明(写真=ウルのジグラット、5500年前には頂上に神殿が建てられていた)とエジプト文明を創った人々の言語のシュメール語とエジプト語も死語である(エジプト語は、ナイル上流域にわずかに残るコプト語に系譜をつないだ)。
ローマ文明のラテン語もほぼ死語
いずれも中東を往還する民族の興亡の後、イスラムの教えと共に広まったアラビア語に上書きされてしまった。楔形文字も、今では専門の言語学者でしか解読できない。
またコロッセオを造ったローマ文明も、その言語のラテン語は、聖書や医学用語などにわずかに残るだけで口語としては死語となった。
さらにローマ文明の前のイタリア半島で栄えたエトルリア文明(写真=タルクィニアの壁画が描かれたエトルリア人の墓)のエトルリア語も死語となった。
無文字社会の声なき死語多数
しかし上記の死語は、文字の記録が残っていたから、死語となったと分かっている。
地球には、文字を創らなかった無文字社会もたくさん存在した。無文字社会の人々は、文字記録も残さず、話す人たちも消滅して、永遠に消え去った。
現代人に認識もされずに消え去った死語は、おそらく万はあっただろう。
日本でも、あやうく死語になりかかった言語がある。アイヌ語である。もし言語学者の金田一京助とアイヌ人として保存と研究に生涯をかけた知里真志保(写真)がいなければ、アイヌ語も死語になったかもしれない。
死語は、別に珍しいことではない。
旧植民地に広がった征服者言語の英語とスペイン語の差
半面、世界中に広がったのが、インド・ヨーロッパ語族の一つの英語である。
英語は、アメリカ合衆国とオーストラリア、ニュージーランドなどに農業移民が大量に入植したから、在地の先住民と別個に入植地全地域に広がった。先住民も、英語ができなければ、その社会で生き残れないので、どんどん英語を取り入れた。
ただラテンアメリカを植民地化したスペイン人は、自国民を占領地に積極的に植民させなかった。だから英語と違って、ラテンアメリカでスペイン語は共通語として使われているけれども、インカ帝国のケチュア語は今もペルーなどで、アステカ帝国のナワトル語もメキシコ、メソアメリカの一部で今も話され、その言語を使った聖書も作られている。
スペイン語に上書きされることはなかったのだ。
民族の魂の言語
言語は、その民族の魂だとされる。それを失うことは、民族性も失うことだ。
だから欧米民主主義国は、消滅しかかっている民族言語が失われないように努めている。しかし一部の独裁国、例えばスターリニスト中国などは、少数民族言語を学校で教えることを制限している。少数民族も、豊かな暮らしをするには、漢語ができなければ話にならないので、民族意識の高い一部を除いて、積極的に漢語を学ぶ。おそらく22世紀には、死語となる言語がほとんどではないだろうか。
昨年の今日の日記:「ウクライナ侵略戦争の彼方にプーチン大帝国ロシアの四分五裂の解体が見える;追記 志位批判の松竹氏、共産党を除名さる」