​​ JAXA(宇宙航空研究開発機構)が昨年打ち上げた無人探査機「SLIM(スリム)」が20日午前0時頃に月面15キロの周回軌道から降下を開始し(下の想像図の上=月面周回軌道上のSLIM)、同20分に月面にぶじ着陸した(下の想像図の下)。​​

 月面着陸成功は、世界で5カ国目の壮挙だ。
 

 

 

従来探査機の10倍以上の着陸精度​

 人類初の月面着陸は、半世紀以上前の1966年、旧ソ連が成し遂げた。それ以来、アメリカ(アポロ計画では初の人類の月面着陸)、スターリニスト中国、インドに続く。

​ 今回が、前4カ国のこれまでの月面着陸と著しく異なるのは、SLIMが誤差100メートル以内の「ピンポイント」着陸に成功したことだ(様々な機器による調査で約1カ月後に成功したか確認の予定)。これまでは数キロから数十キロもの誤差があり、月の資源の探査などには不確実な要素があった。SLIMの着陸精度は、10倍~100倍となる(写真=SLIMの着陸した付近のクレーター)。​

 

 

 今回、JAXAの国中均所長が「ギリギリ合格の60点」と辛い評点を付けたのは、着陸直後に、地上との通信や機器観測の電源となる太陽電池が発電していないことが判明したからだ。現在、機体に搭載したバッテリーで節電しながら運用しており、月面データを取得中だ。
 

柔道の受け身のように自ら倒れ込んで着陸​

 太陽電池が機能していないのは、今回SLIMが試みた野心的な着陸方式が原因と見られる。従来は逆噴射しながら脚で垂直に着陸していたが、SLIMは柔道の受け身のようにあえて自ら倒れ込むような着陸を目指した。従来方式では、月面の平らな面にしか着陸できなかったが、「受け身」方式だと斜面やクレーターの縁にも着陸できるのだ。半面、太陽電池の向きを太陽の方向に向けにくい弱点もある。今回も、ハード面の故障でなく、倒れ込んだために太陽電池を望む向きにできなかった可能性が高い。

 これは、今後の月面での水資源の探査などにはぜひ確立しておきたい技術だ。氷の存在が確実視され、各国も着陸を目指す月の南極付近には平地は少ないからだ。

 SLIMは、着陸寸前にロボット2台を分離・放出した。
 

抜群のコスパ​

 またこれまでになく軽い機体を達成できた。昨年に月面着陸に成功したインドや失敗したロシアの月面探査機は数トンのレベルで、半分以下だ。軽ければ、それだけコストを圧縮できる。月への輸送コストは、1キロ=1億円と言われるから、これは大きい。

 年内には、前回月面着陸に失敗した民間ispace社も2回目の着陸船を打ち上げ、またJAXAも来年にはインドと共同して月の南極での水資源探査を予定している。

 新たな希望が見えてきた。


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