今年の干支の辰にちなんで、1日の日記の続編として、魚類トゲウオ目のタツノオトシゴの奇っ怪な繁殖形態を取り上げる。

 タツノオトシゴの繁殖形態は、数年前にイグノーベル賞を受賞した研究成果にもなったトリカエチャタテと似たところがある(17年9月21日付日記:「小さな昆虫トリカエチャタテの見せる逆転の性行動と生殖器、日本人若手研究者らの『性器の大発見』がイグ・ノーベル賞を授賞」を参照)。

 

オスが「出産」するタツノオトシゴ​​

 トリカエチャタテと異なり、性器が逆転しているわけではないが、タツノオトシゴの場合、繁殖行動が逆転しているのだ。

​​ 卵をオスがさながら子宮のような育児嚢で育てる。体はオスより大きなメスは、オスと出合うと、受精卵をオスの育児嚢に受け渡す(下の写真の上)。メスから渡された受精卵は、酸素と栄養を供給される育児嚢で孵化し、育つ。約1カ月後、胎児のように育てられた稚魚は、育児嚢から親魚の姿で外に産み出される(下の写真の下)。それは、まさに哺乳類の出産だ。​​

 

 

 

 むろん「出産」までオスは、酸素を途絶えないように供給し、稚魚を保育している。その間、メスは、別のオスを探してどこから行ってしまい、また卵を産める。

 オスはまさに『クレイマー、クレイマー』のダスティン・ホフマンのようであり、一方、メスはふしだらな遊び女のようだ。

 

​​メスの方が投資は大きいのでオスを慎重に選ぶ​​

 生物学では、次世代を産み、育てる行為を「投資」という。ふつうの哺乳類、鳥類、魚類などは、オスは精子を渡すだけで、メスが子育てする。オスの投資は精子を渡すだけだが、メスの投資は、精子よりもずっと大きな栄養を備えた卵子(卵)を作成するだけでなく、哺乳類の場合は、出産後は子育てという大変な難事業を抱える。

 つまりメスの投資の方が、オスよりはるかに大きいのだ。

​ すると投資を無駄にしないように、メスは優良な精子を出す優秀なオスを得ようとする。つまりメスがオスを選ぶ。メスに選ばれるためオスは、ヘラジカのような大きな角(写真)、ゾウアザラシのような巨大な体格、クジャクやフウチョウのような美しい羽毛などを備えることになる。メスは、それを見て、「優秀な」オスを選ぶのだ。多くの哺乳類、鳥類では、オスの方が見た目が立派で、美しいのは、そのためだ。​

 

 

レンカクという鳥もオスが子育て​

 しかしタツノオトシゴの場合は、オスの方がメスよりはるかに投資が大きい。だからオスがメスを選ぶことになる。もっとも多くの哺乳類や鳥類で見られる逆の例のような、オスをめぐってのメス同士の激しいバトルはないようだが。

 似たようなオスだけが子育てする動物に、東南アジアの湖沼地帯に棲むレンカクという鳥がいるが、こうしたオスの子育てはあくまでも例外的である。

 それは、栄養を付けた卵子(卵)を産むのが本質であるメスはそもそも最初から投資が大きいからなのだろう。


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