イギリスの科学誌『ネイチャー』が選んだ科学分野の2023年の10人(Nature's 10)の1人に、大阪大学の林克彦教授(写真)が入った。
オス細胞由来のiPS細胞から卵子を作成
林教授の業績は、オスのマウス由来のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から卵子を作り、これを別のオスの精子と受精させて、仔のマウスを誕生させたことだ。今年3月、同誌に発表した。
さながらSFの世界である。同誌には、海外研究者の「椅子から転げ落ちるほど驚いた」というコメントが載った。
もしこの技術が発展してゆけば、どちらかの性の個体しか残っていない絶滅危惧種を存続させることができる。
絶滅秒読みのキタシロサイに応用できたら
例えばキタシロサイは、現在、ケニアのオルペジェタ自然保護区にいるメス2頭だけしか確認されていない(下の写真の上=メスのキタシロサイ;下の写真の下=最後のオスのキタシロサイ個体)。オスがいないので、この2頭からはもう仔が生まれない(18年7月13日付日記:「絶滅秒読みのキタシロサイにほのかな希望、ミナミシロサイの卵子と受精させ、着床可能な状態に育てる」を参照)。
しかし林教授の技術を使えば、メス個体の体細胞からiPS細胞で精子を作り、これで別のメスから採った卵子と受精させ、仔を作ることができる。
仔は作れても遺伝的多様性は乏しい
前掲日記は、キタシロサイとは別種のミナミシロサイとのハイブリッド個体を作る試みだったが、人間の手で、たぶん繁殖機能の無いハイブリッド個体を作り出すのは、倫理的に問題が多い。
しかし林氏の技術なら、正真正銘のキタシロサイの仔ができる。ただし生まれた仔は遺伝的多様性が乏しく、その次の仔、すなわち孫の相手に困ることになる。
ヒトへの応用は、技術的にもまだハードルが高いという。技術的に可能になっても、倫理的に大きな問題を引き起こす。
科学技術の発展は、常に新しい問題をもたらすことになる。
昨年の今日の日記:「日銀、海外投機筋に屈し、ついに異形の大規模金融緩和を転換;長期金利高騰、円高、株安の日」