将来の小惑星の地球衝突を回避するための技術開発として昨年11月に二重小惑星に向けて打ち上げられ、去る9月26日にその「衛星」小惑星「ディモルフォス」に衝突させたNASAの探査機DARTが、首尾良く軌道を変えさせることに成功した。11日、NASAが発表した。


迫られる衝突回避の方法​

 宇宙発の地球最大危機は、小惑星の地球衝突だ。その危険性の大きさは、6600万年前にユカタン半島沖合に衝突した直径10キロほどの小惑星によってもたらされた「終末」的大惨禍で明らかだ。この衝突で、大半の恐竜類、魚竜、翼竜、さらに海ではアンモナイトなど、地球生命種の76%が絶滅した。

 小惑星衝突の危機は、アメリカ映画『アルマゲドン』でも描かれているように、なかなか予測できず、また衝突の危機が分かってからも対策がほとんど無い。

 『アルマゲドン』は、宇宙飛行士を小惑星に派遣し、そこに核兵器を埋設して爆破するストーリーだったが、莫大な費用と宇宙飛行士の生命を危険にさらすなど、フィクションの映画ならまだしも、およそ現実的ではない。
 

体当たりさえできれば​

 しかし、もし事前に接近が予測できたら、ロケットを打ち上げ、接近する小惑星にちょっと体当たりして軌道を変えれてやりさえすれば、衝突を回避できるかもしれない。

​ DARTは、それを実験するために昨年打ち上げられた(想像図=標的小惑星に接近するDART)。​

 

 

 本日記でも、2回に分けてその意義と狙いを記述した(21年12月23日付日記:「NASAが小惑星ミニ衛星に体当たりするDART探査機を打ち上げ、成るか、軌道を変える壮大な地球防衛実験(後編)」、及び21年12月20日付日記:「NASAが小惑星ミニ衛星に体当たりするDART探査機を打ち上げ、成るか、軌道を変える壮大な地球防衛実験(前編)」を参照)。
 

二重小惑星の衛星なら効果の判定が可能​

 DARTが向かったのは、地球から約1100万キロ離れた二重小惑星「ディディモス」と「ディモルフォス」だ。直径約780メートルのディディモスは、1996年に発見されたが、その後の観測で、ディモルフォスという直径約163メートルの小惑星を衛星として従えていることが分かった。

 だからNASAが、今回の実験対象に選んだ。

 ちなみにディディモスもディモルフォスも、将来地球に衝突する危険性は、無い。

​ しかもディディモスには、ディモルフォスという衛星を持つ。もし探査機を衛星ディモルフォスに体当たりさせれば(写真=体当たり直前のディモルフォス)、軌道が変わるかもしれない。多くがそうである単独の小惑星なら、その効果の判定がつけにくい。しかし衛星なら、母天体のディディモスと共に観測すれば、公転周期に変化が出来る。​
 

 

 

体当たりで軌道は数十メートル動いた!​

 ディモルフォスは、ディディモスの周囲を11時間55分かけて周回していた。体当たりさせた後、地上の望遠鏡で観測すると、公転周期は32分短くなり、11時間23分になったことが分かった。

​​ この成功は、イタリアの小型探査機「LICIACube」とハッブル宇宙望遠鏡が見ていた(写真はハッブル宇宙望遠鏡が撮影したディモルフォスの体当たり後に出来た破片)。​​

 

 

 

 予想されたとおり、ディモルフォスは「ラブルパイル天体」で、つまり1枚岩の天体ではなく、いくつもの岩が緩やかに集積して集合体をなしていたから、体当たりから3分足らずで、現場近くを通過していた「LICIACube」が立ち上る塵の雲を撮影した。

 衛星ディモルフォスは、DARTの体当たりによって軌道を変えられ、数十メートルだけ、ディディモスに近づいた。そして母天体に近い新軌道を取るようになったのだ。

 NASAのビル・ネルソン長官は、周期が10分でも変われば大成功だっと思っていた、と喜びを爆発させた。

 もし直前ではなく、ある程度余裕をもって小惑星の接近が予測されれば、これで探査機を打ち上げて軌道を変更させられることが実証できた。従来軌道よりほんの数十メートルでも軌道を変えさせられれば、地球最接近時には大きくそらすことができる。

 大きな意義のある実験成功だった。
 

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