​ エチオピア国立博物館(National Museum of Ethiopia:NME)は、聖ゲオルギウス大聖堂の東方に位置する(地図)。​

 


 

目立つところにイダルツ頭蓋​

​ ワクワクした正面入口に立った。意外と大きくない。世界最大の古人類の収蔵博物館としては、意外と地味だ(写真)。エチオピアの国力から、博物館に大きな予算を割いて近代的建築に造り変えられないのだろう。​

 

 

​ 1階の目立つ所に、ヒトの頭蓋化石(レプリカ)が飾ってあった(写真)。日本人研究者の諏訪元氏らが1997年に発見した16万年前の最古のホモ・サピエンスの1つであるホモ・サピエンス・イダルツの頭蓋である。これより古いホモ・サピエンス化石は、同じエチオピアのオモ河谷でも発見され、年代は19.5万年前である(注 今年1月の『ネイチャー』の報告で、少なくとも23.3万年前と改定された)。ただイダルツの方は、顔面も残るなど、保存の完全さでは、群を抜く。​

 


 

31.5万年前のホモ・サピエンスがモロッコで報じられたが​

​ もっとも、僕たちがNMEでイダルツの頭蓋を見学した後の2017年6月、イギリスの科学週刊誌『ネイチャー』で、北アフリカ、モロッコのジェベル・イルード遺跡で、約35万年前に遡るホモ・サピエンス化石の発見が報じられた(写真=左が約35万年前のホモ・サピエンス化石)。​

 

 

 ただ年代の飛び抜けた古さから、僕はジェーベル・イルード標本の年代の正確さに疑問を持っている。また写真の右のホモ・サピエンス頭蓋と比べて眉上隆起の高さ、頭部の膨らみの弱さなどから、典型的ホモ・サピエンスに比べると、古代性が目立っていて、ホモ・サピエンスと言うには躊躇させられる。
 

巨大なイノシシ化石に注目​

 それはさておき、僕は勇んで博物館の中を観て歩いた。素晴らしいことに、写真撮影が可能だった。エチオピア国立博物館関係者が、世界の古生物学ファンに世界的な収蔵品の撮影を許していることに、僕は深く敬意を表する。

 1階には、主に1960年代にクラーク・ハウエル調査隊(アメリカ、フランス、ケニア3国調査隊)がオモ河谷で収集したものと思われるたくさんの哺乳類化石が展示されていた。

​ その中で、僕が注目したのは、巨大なイノシシ化石である(写真)。かつてイノシシ化石をめぐって、ケニアの人類化石の年代と整合性がとれないということで、世界の古人類学者の間で激しい論争があったことを思い出したのだ。​

 


 

人類化石の年代をめぐるイノシシ論争​

 東アフリカのイノシシ化石は、その進化傾向が年代順にきちんと配列されることが分かっていた。ところがケニア出土のある人類化石(KNM-ER1470)が、共伴するイノシシ化石の生層序学的推定年代とエチオピアの系列とギャップがありすぎたのだ。エチオピア側研究者は、イノシシ化石から見て、KNM-ER1470は測定年代よりもっと若い(すなわち測定年代が古く出過ぎている)と批判、それを認めないケニア側と激しく論争した。

 その後、KNM-ER1470の含まれる地層の年代測定がやり直され、イノシシ化石の生層序学年代と一致し、論争は決着した。
 

昨年の今日の日記:「北朝鮮の相次ぐミサイル発射、だが同日に発射された反日韓国のSLBMも日本に脅威だ!」