何でも偽造・模倣するスターリニスト中国で、今、科学技術の研究論文の偽造を組織的に請け負う「ビジネス」が、科学界ばかりか中国共産党内でも問題化している。


捏造論文作成料は約70万円​

​ スターリニスト中国の研究論文の年間発表数は、世界最多だが()、画期的で重要な論文であることを示す被引用論文数は、ずっと下位になる。​

 

 

​ あまり実のない見てくれ「研究論文」が多いことを示すが、何と偽造論文を請け負う「論文工場」まであるという。共産党の指導下にある国営メディアが、相次いで特集記事を組んだ。​

 値段は、数千元から数万元で、ある論文工場の営業担当者と接触した記者が、研究者になすまして接触した顛末を書いた記事によると、手口はこんな風になっているらしい。

 その記者のなりすました「研究者」が論文検索データベース「SCI」に収録される論文を希望すると、営業担当者は研究分野を聞き取り、投稿先まで探してくれたという。

 ほぼ書き終わった英語論文の捏造・代筆料は、3万7500元(約68万円)を請求された。


スターリニスト中国科学界の病理​

 こうした捏造論文の中には、常識を外れたトンデモ論文も少なくない。ある例では、子宮頸がんに男性患者も多い、という論文も例示されていた。子宮の存在しない男性に子宮頸がんなどあるわけはない。それでもこんなトンデモ論文がまかり通るというのは、相当にレベルが低い。

 論文を捏造する側は、まともな研究をするよりも「工場」の要請で論文捏造を請け負った方がよほど儲かるのだ。

​ こうした論文捏造工場が蔓延る背景には、スターリニスト中国の科学界の風土がある(グラフ;「ペーパーミル」とは論文捏造工場のこと)。質はともかく、学術誌に掲載した論文数の多寡が、研究業績として評価される。だから論文捏造工場だけでなく、金をもらってのアルバイト感覚による代筆・代理投稿も多い。​

 

 

 ある国営メディアの記事によると、調査チームが調べた結果、2020年以降、世界で(つまりスターリニスト中国で)16の論文捏造工場と2000本以上の偽造論文を発見したいう。


発覚の遅れがちの生命科学・医学分野が圧倒的​

 査読制科学誌に投稿する日本でも、実験データを改変したりするフェイクペーパー(ニセ論文)は時折、話題になる。中には著名教授の長年の論文が、「再現性がない(のでフェイク)」として一括取り消しされた例もある。

​ こうした捏造論文は、生命科学・医学分野に多い(写真)。第三者の再現が難しいので、長年、正当な論文として学術誌に掲載され続け、研究者にとって実績となるからだ。​

 

 

 スターリニスト中国の論文捏造工場も、この両分野が圧倒的に多い。


近いうちに大規模な手入れか、しかし病理は治らず​

 国営メディアがこうした警鐘を鳴らす記事を次々と発表する背景には、むろん中国共産党の意思がある。

 近いうち、論文捏造工場に対する大規模な摘発が行われる可能性が高い。

 しかし党の科学政策と科学界が変わらなければ、モグラ叩きのように、いずれ新たな論文捏造工場が作られるだろう。

 スターリニスト中国科学界を冒す病理を、2015年のノーベル生理学・医学賞受賞者の屠呦呦(と・ゆうゆう)氏を例にして書いた以下のブログを参照。なお屠氏は、スターリニスト中国でただ1人のノーベル自然科学3賞の受賞者である(15年10月20日付日記:「スターリニスト中国初のノーベル賞自然科学3賞の屠呦呦氏を包む中国科学界のジェラシー、中国ではもう授賞は無理?」、及び15年12月11日付日記:「中国初のノーベル賞理系3賞受賞の屠呦呦氏、今年の院士発表からも外れる;追記 ベネズエラ総選挙結果確定」を参照)。
 

昨年の今日の日記:「武漢肺炎パンデミックのイギリス、300年以上前の小氷期以来のGDP落ち込み、その小氷期とは」