アフリカは現生人類ホモ・サピエンスの故郷の地で、今のところ確かな化石で最古のものは、いずれも東アフリカのエチオピアで見つかっている。

 

東アフリカの最古のホモ・サピエンスにモロッコから一石​

​​ その現代人的な形態の最も古い早期ホモ・サピエンスは、オモ・キビシュ層出土のオモ1号(下の写真の上)、同アファール低地ミドル・アワシュのヘルト(下の写真の下)出土のもので、年代はそれぞれ約19.7万年前、約16万~15.5万年前とされている。​​

 南アフリカでは、これと匹敵する化石は見つかっていないから、長い間、東アフリカの20万年前頃が最古のホモ・サピエンスの出現時期かと考えられてきた。

 

 

 

 そこに一石を投じたのが、モロッコのジェベル・イルードの早期ホモ・サピエンス化石である。ジェベル・イルードでは1960年代に人類化石が発見されていたが、発見地点が今でははっきりしなくなっていた。

 

ジェベル・イルードの最古のホモ・サピエンスは31.5万年前か​

​ それを、ドイツ、マックス・プランク進化人類学研究所の古人類学者ジャン=ジャック・ユブラン博士らが2004年から発掘調査をやり直し、新たにホミニン化石5点などを見つけた。頭蓋や下顎骨(写真)には、それまでネアンデルタール段階と考えられた化石と比べ、進歩的なところが多く見られ、ユブラン博士は、最古のホモ・サピエンスと判断した(17年6月29日付日記:「最古の現生人類か? モロッコ、ジェベル・イルード出土人骨の31.5万年前という放射年代」を参照)。年代は、ホミニン化石に共伴した、焚き火を受けて焼けた中期石器時代(MSA)のフリント薄片を熱ルミネッセンス法で年代測定し、31.5万年前とした。​

 

 

 この2017年の発表は、世界を驚かせた。それまで初期ホモ・サピエンスが進化したのは、化石証拠から東アフリカに間違いないと思われていたのが、いきなり核地域でない西北アフリカのモロッコにもっと古い初期ホモ・サピエンス化石が出たのだ。

 

オモ・キビシュ層の年代は23.3万年前に遡る​

 この他、様々な考古学証拠も含め、現在では初期ホモ・サピエンスは、オモやヘルトよりも古くから存在したと考えられていて、異論がある。

​​ 今回、ケンブリッジのセリーヌ・ヴァイダル博士(自然地理学講師=下の写真の上)らは、オモ1号化石が出土した堆積層のすぐ上の地層を、エチオピアの火山噴火で放出された物質と相関させることで、年代の見直しを行った(下の写真の中央と下=オモ1号頭蓋の発見されたオモ・キビシュ層と同層を調べる調査隊)。その結果、オモの化石のアルゴン・アルゴン年代は少なくとも23.3万±2.2年前であることが示された。イギリスの科学誌『ネイチャー』2022年1月27日号で報告された。​​

 

 

 

 

 一方、ヘルト頭蓋の年代は、他の広域火山灰層との対比がうまくいかず、その下限年代を確定させることができなかった。

 

人類進化の周縁部でサピエンス化は起こったか​

 今回の意義は、東アフリカの早期ホモ・サピエンスの出現年代が、精密な調査で3.5万年も遡ったこともあるが、それ以上にさらに調査を進め、新たに化石証拠が見つかれば、ジェベル・イルード並みにまで初期ホモ・サピエンスの起源が遡る可能性のあることを示したことだ。

 ただ人類進化に限らず、進化は核地域から離れた周縁部の集団で始まることが多い。周縁部は、核地域より隔てられているため、遺伝的浮動や何らかの環境適応での「変化」が起こりやすく、しかも周縁部集団はポピュレーションが小さいために、その変化は速やかに集団に広がる。

 実は西北アフリカで始まったホミニンのサピエンス化は、その後に東アフリカ、そして南アフリカへと伝わった可能性もないわけではない。


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