NASAなど各国の関係機関は、数十年前から地球の軌道と交わる軌道を持つ小惑星を探し、その将来的な動きを予測してきた。数百年先のリスクを予測し、備えられるようにするためだ。


発見された小惑星のうち数百年内に衝突する可能性のものはゼロ?​

 これまでの探索で、直径1キロ以上の地球近傍小惑星は890個見つかっているが、今後数百年以内に地球に衝突する可能性があるものは1個もない。ただしコンマ以下の確率まで広げると、先頃、NASAの探査機がサンプルを採集したベンヌの例はある(20年10月27日付日記:「1世紀後に地球に衝突する危惧のある小惑星『ベンヌ』にNASAの探査『オシリス・レックス』が着陸、サンプル採取に成功」、及び18年4月8日付日記:「小惑星大衝突による破局的危機の回避策をNASAが提案、約1世紀後の予測だが」を参照)。
 

ミニ小惑星の半数以上は未発見​

 だが直径わずか140メートルのミニ小惑星でも、都市を直撃すれば壊滅的な大被害を与える恐れがある。しかも、そのほとんどはまだ発見されていないのだ。シミュレーションによると、直径140メートル以上の地球近傍小惑星はおよそ2万5000個もあるとされているが、現時点で発見されているのは約1万個に過ぎない。

 しかしこの先、NASAの宇宙望遠鏡「地球近傍天体サーベイヤー」など複数の観測機が新たに運用される計画があり、天体発見のペースは速まると期待されている。

 そこで地球に衝突する恐れのある小惑星が発見された場合、どうなるだろうか。
 

場合によっては核爆弾使用も​

 衝突までどのくらいの時間的猶予が残されているかによって対策は変わってくる。

 大きな小惑星が数カ月後に衝突すると分かった場合、選択肢の1つは、小惑星のすぐそばで核爆弾を爆発させることだ。核爆弾から出るX線によって小惑星の表面の一部が消滅し、その結果生じる噴出物が小惑星をわずかに突き動かすことが期待され、そうなれば地球にぶつからない程度に軌道がずれる可能性がある。

 それほど大きくない小惑星で、しかも衝突まで長い期間があるとなれば、核爆弾を使う必要はない。DARTのような小回りの利く探査機を小惑星に衝突させて、軌道をわずかに変更させるだけで十分だ。わずかな変化でも、何年もたてば、ずれは大きくなり、地球への衝突を回避できる。
 

二重小惑星のミニ衛星なら軌道への影響はほとんど無し​

​ DARTを建造した(写真)ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)が想定しているのは、後者だ。​

 

 

 APLは、10年以上前からこの実験のためにディディモスとディモルフォスのような二重小惑星を利用できないかと考えてきた。下手に小惑星の軌道を変更させると、いつか遠い未来に逆に地球にぶつかるコースに載せてしまう恐れがある。しかし今回のように二重小惑星のうち、大きな方の小惑星を周回するミニ衛星の公転軌道を少し変更するだけであれば、小惑星系全体の軌道にはほとんど影響を及ぼさないからだ。

 DARTにとっての一番の難題は、時速2万4000キロの猛スピードで移動しながら、ディモルフォスという小さな的に正確にぶつかることだ。しかも、ディモルフォスがどんな形をしているのか、全く分かっていない。
 

直前になるまで二重小惑星の姿を見られない​

 的を外さないように、技術者たちはスマートナビと呼ばれる誘導システムを開発した。これはDARTに搭載された望遠鏡を使って、DARTが自律的に衝突地点を狙うことができるようにするものだ。

​ DARTは、衝突の4時間前になるまで、小さすぎてディディモスの姿を見ることはできない。ディモルフォスに至っては、衝突のわずか1時間前にならなければ視野に入ってこない。DARTが最後の軌道修正を済ませ、衝突まであと2分、距離にして800キロまで近づいてようやく、ディモルフォスはDARTの視界内に入って見えるようになる(想像図)。​

 

 

 衝突まで、DARTは速ければ2.5秒に1回のペースでディモルフォスの画像を撮影し、地球へ送ることになっている。
 

時速2万4000キロの体当たりで軌道変えることは可能​

 この最後の画像でとらえれるディモルフォスの地形は、DARTの衝突が与える影響を理解するうえで役に立つ。発生する噴出物の量は、DARTがどこに衝突するかによって、例えば岩にぶつかるのか、砂地にぶつかるのかで、変わってくるためだ。

 DARTが、どの程度、ディモルフォスを動かすことができるかは不明だが、研究者たちは時速2万4000キロの体当たりで十分な衝撃を与えられるだろうという。NASAにとって、DART計画を成功とみなすには、ディモルフォスの公転時間が少なくとも73秒短くなる必要がある。チームは、最大10分まで短縮できると予測している。
 

​​「自爆攻撃」後も監視​​

​​ DARTは、この「自爆攻撃」を独りぼっちで迎えるわけではない。衝突の約10日前に、DARTは搭載している小型人工衛星「LICIAキューブ」を本体から切り離す(下の想像図の上:ディモルフォス(左)に衝突しようとするDART探査機(左手前)と、それを見守るLICIAキューブ(右);下の想像図の下:二重小惑星を看るDART(左)とLICIAキューブ(右奥))。​​

 

 

 

​ このLICIAキューブ(写真)は、DARTの衝突から165秒後にディモルフォスの近くを通過して、その表面に新たに生じた衝突の傷跡と、衝突によって発生する塵を撮影する。また、衝突時の閃光をとらえることもできるかもしれないという。​

 

 

 LICIAキューブがとらえる画像は、DART計画にとって極めて重要な資料となる。

 大量の物質を噴出させるはずの塵の量と、それがどれくらいの速さで移動し、どこへ向かうのかをうかがえるデータだ。

 LICIAキューブは、数週間にわたって地球にデータを送信するが、その後は任務を終えて太陽系内を漂い続ける。
 

2024年以降はESAがさらに監視​

 しかし、ディモルフォスの観測はそれで終わりではない。2024年には、欧州宇宙機関(ESA)が別の探査機を打ち上げ、ディモルフォスの調査をさらに詳しく実施することになっているのだ。

​ 人類の存亡の鍵を握るかもしれない壮大なプロジェクトの成功を見守りたい。

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