人口世界一は現在はスターリニスト中国だが、公式発表とは別に、昨年は1950年代末の大躍進政策の失敗で人口減少して以来、半世紀余ぶりの人口減となった可能性が高い。

 このままいけば、世界第2位のインド(2019年で約13億6600万人)に数年内に追いつかれ、逆転されると見られている。
 

​◎インドの直近の合計特殊出生率は2.2まで下がった​

​ ただ、多産多死だったインドも、世界の潮流に合わせるように、近年、出生数が落ちている(写真=インドの子どもたち)。

 

 

 60年前に合計特殊出生率は6前後だったものが、2020年には2.2まで下がっている(写真=都市部を中心に一人っ子の夫婦も)。ちなみに人口維持が必要な合計特殊出生率は2.1とされており、日本を含む先進国は軒並み1台で、韓国の場合は1さえ切っている。やがて世界は人口減少時代に入る。​

 

 

 インドで合計特殊出生率が急速に落ち込んでいるのは、やはり生活水準の全般的向上とそれに伴う教育の普及である。

 どこの国でも、親世代が高学歴で生活が豊かだと、あまり子どもを産まなくなる。半面、そうでない時代・国では、多産である。僕の知り合いの、今年90歳になる老人の話によると、彼自身は子どもは3人だったが、兄弟姉妹は自分を入れて10人だったという。

 出身は、信州の田舎で、周りの家でも、どこも10人くらいの子どもがいたという。
 

​◎多産多子の要因は男の子願望​

​ 現代の日本で、10人の子だくさんなど、およそ現実感がないが、知人の育った戦前は、農村はどこもそうだったのだ(写真=戦前の子だくさん)。​

 

 

 

 インドには、多産の隠れた理由がもう1つあった。それは、男の子願望である。男子は成長すると稼いでくれ、家計の足しになるから、という理由の他に、この国では後述の文化的因習があり、男女の産み分けがまだできないので、女児の堕胎が異常に多いのだ。

 直近はわからないが、少なくとも10年前くらいの推定だと、年間で50万人もの女児が堕胎されていたという欧米研究者の推計値がある。その結果、インドの男女比は、男1000人に対し、女898と、かなりの不均衡になっている。
 

​◎農村部にはびころ「婚資」の授受​

 その背景の因習が、婚姻に際し女性は嫁ぐ男の家から多額の婚資(bride price)を要求されることがある。婚資が少なくて、夫の家で花嫁が殺されるという極端な例もある。嫁が死ねば、男の家は、もう1度婚資を得られるチャンスが出来るからだ。

 教育水準が普及している現代でも、非都市部の地方に行けばいまだに女性側が婚資を納める習慣が残っている。

 ただ最近の合計特殊出生率の低下は、むしろ全般的な教育水準の普及だろう。男女の高学歴化は、いずれも少子化に結びつく。
 

​◎ヒンズー系与党インド人民党に危機感​

 しかしインドでは、それに危機感を抱く層もある。現与党のインド人民党である。

 インドの出生率の低下は均一ではなく、一般にイスラム教徒の方が出生率は高い。宗教的理由で、イスラム教徒は産児制限を嫌うからだ。

 すると、多数派ヒンズー教徒の党である与党インド人民党は、やがてイスラム教徒によってインドの人口バランスが崩されるという危機感を覚える。東西をイスラム国家(西のパキスタン、東のバングラデシュ)に挟まれたインドのヒンズー教徒にとって、これは安保上の問題にもなる。
 

​◎ヒンズー教徒は圧倒的多数だが州レベルで「子どもは2人まで」推進​

 現在、インドのイスラム教徒人口は15%くらいで、ヒンズー教徒人口は70数%だ。まだまだヒンズー教徒は圧倒的多数なのだが、ヒンズー至上主義を掲げる民族義勇団は、人民党を突き上げて、州レベルで「子どもは2人まで」という条例を制定しようと動いている。

 2人までに固定すれば、宗派別人口が大きく動くことはなくなる。

 これもまたインドの人口増の鈍化の新しい要因なのである。
 

昨年の今日の日記:「日本から最も遠い『欧州最後の独裁者』ルカシェンコの統治する国ベラルーシが動揺、市民の反独裁・民主化の闘い」​