ネアンデルタール人が彫刻を施したと思われる動物骨が、ドイツ北部アインホルン洞窟で発掘された。同洞窟を調査しているドイツの考古学者らのチームが、学術誌『Nature Ecology & Evolution』7月6日号に発表した。
 

オオツノジカの指骨に山形文を10本刻む​

​ アインホルン洞窟は、入口が崩落した石灰岩洞窟(写真)で、2014年からゲッティンゲン大学調査チームが発掘していた。問題の獣骨は、絶滅したオオツノジカの指骨で、2019年に見つかった。​

 

 

 

 

​ 指骨には、ヒトの象徴行動と思われる積み重なった山形文の模様10本が彫刻されていた(写真)。顕微鏡による分析と実験による再現から、その骨はまず煮て軟らかくした後に彫られたと推定された。​

 

 


ホモ・サピエンス出現前の5.1万年前の謎の幾何学模様​

 具象的でない10本の線の模様は、何かの抽象的概念を表現したものと見られる。オーカー素材に格子模様を刻んだ7.5万年前の南アフリカ、ブロンボス洞窟出土製品と似ている。こちらは、古型ホモ・サピエンスの作品だったが、アインホルンの指骨彫刻品は放射性炭素年代測定法で限界ギリギリの5.1万年前だった。

 ディルク・レダーやトマス・テルベルガーら報告者は、この頃、まだアインホルン洞窟のあるドイツ北部には現生人類ホモ・サピエンスは到達していないので、ネアンデルタール人の制作になる物、と推定している。

 それが何を表現、あるいは記録したものかは、具体的な物事に囲まれた現代人には永遠に分からないに違いない。ただ制作した名も無きネアンデルタール人彫刻家のみが知るところだ。


ホモ・サピエンスからアイデアを学んだか​

 既に遺伝子証拠から、5万年前にはヨーロッパでホモ・サピエンスとネアンデルタール人の遺伝子交換が行われていたことが分かっているので、先住ネアンデルタール人がこの頃ヨーロッパにやって来たホモ・サピエンスから、骨に何かを記録するアイデアを学んだ可能性が高い。

 これが芸術作品だとすると、ネアンデルタール人の制作した最古のもの、となる。
 

昨年の今日の日記:「タイの会社がココナツ収穫にサルを使っていたとしてアメリカの動物愛護団体から非難、製品が欧米スーパー店頭から消える:日本も要警戒」