すべての陸上動物は、かつて海棲の動物に起源を持ち、その一部が陸上に進出して、今日のような繁栄を見たのは、進化学的にも化石でも確認されている。
 

​​なぜ海棲動物が陸上へ進出できたのか​
 それが、知性を生んだ。
 例えば陸上動物で最も知能の高い我々人類は、陸にいるおかげで上肢を鰭のような役割に進化させずに済み、それで長い時間をかけて器用な手を進化させ、石器を作ることができた(写真=ケニア、ロメクウィ3遺跡で見つかった世界最古の石器、330万年前)。石器こそ、今日のコンピューター文明に連なる意義を持つ画期的な発明だった。

 


 さて、何が海棲動物の陸上への進化を可能にさせたのか――東大や沖縄科学技術大学院大の若手研究者たちが「海の嫌われ者」オニヒトデ(写真)から、陸上進出を阻んでいると見られる遺伝子を発見した。

 


 

亜鉛取り込みを抑制する蛋白質を陸上動物は産生しない​
 新発見の遺伝子は、金属の取り込み調節に重要な役割を果たす新しい蛋白質を産生する遺伝子で、オニヒトデから見つけたこの新蛋白質をチームは、DMTRP(二価金属イオン輸送体関連タンパク質:Divalent Metal Transporter-Related Protein)と名付けた。
 詳しく調べると、DMTRPは細胞への亜鉛の取り込みを抑制していることが分かった。
 海水に溶け込んでいる亜鉛は生物に必須だが、量が多すぎると有害となるため、DMTRPは、亜鉛が豊富な海で過剰な取り込みを防いでいると考えられる。
 さらに調べると、DMTRP遺伝子を持つ生物はすべて海に棲む動物だったのに対し、淡水や陸上の動物を含む主な動物群(脊椎動物、節足動物など)からはDMTRP遺伝子は検出されなかった。
 海から進出した陸上は、亜鉛が不足する環境なので、こうした動物では取り込みを抑制するDMTRPを持つのは生存上、不利になるため、捨て去ったと考えられる。
 

ただ1度の突然変異が陸上動物の繁栄につながった​
 陸上に進出した初期の動物は、DMTRP遺伝子のために、亜鉛不足に悩まされただろう。そして多くは、淘汰された。しかし中にはたまたまDMTRP遺伝子を効かなくさせる突然変異を持つ個体が現れ、彼らは食物から亜鉛を吸収できるようになった。そうやって長い時間をかけて、陸上動物のゲノムからDMTRP遺伝子は消失したのだろう。
 系統進化的に考えると、淡水や陸上で繁栄している動物群は、すべてDMTRP遺伝子を失った祖先から進化したものであることが分かった。すると、この進化は、ただ1回起こり、その後に多様な動物群の適応放散が起こったことになる。
 たまたま起こった突然変異が、その後の動物たちの進化を変えたことは、まさに奇跡的であった。

 

昨年の今日の日記:「現生アイスランド人のゲノムに残る旧人由来の遺伝子」