​ 北東アフリカの人口1億1000万人を抱える大国エチオピアで、再び戦乱が起こっている。しかも一方の当事者のエチオピア政府軍を指揮するアビー・アハメド首相(写真)は、昨年度のノーベル平和賞の受賞者だ。

 

 

帝政打倒の革命後に多民族国家のエチオピアで内戦​
 そのマンガのような図式は、今年になって俄に高まったティグレ州を拠点とするティグレ人民解放戦線(TPLF)との緊張、そして戦闘である。
 僕は、2016年1月に主にティグレ州などを周遊した。そこで、戦闘が起こっている。戦闘も規模が大きく、TPLFの兵士約500人が戦死し、エチオピア政府軍にもほぼ同数の死者が出ていると伝えられる。訪問したアクスムやメケレは大丈夫だろうか、と気にかかる。
 多民族国家エチオピアは、1974年の革命で帝政が廃止されて以来、社会主義政権のもと、辺境の北方エリトリアの独立をめぐる戦争、北東方オガデン地方でのソマリアとの国境紛争、そしてティグレ州でのTPLFとの内戦など、戦争が絶えなかった。
 その混乱の過程で、大規模な飢餓と難民が発生し、世界の良心を痛めた。
 

ここ10年は年率10%の高成長​
 オガデン戦争はソマリアの破綻国家化で事実上勝利し、エリトリアとの戦争は、メンギスツ社会主義政権を打倒したTPLFなどの連合政権で和平終結に至った。またティグレ州の独立を求めたTPLFとの戦闘は、TPLF主導のエチオピア中央政権の確立で、こちらも終結した。
 この平和のもとで、エチオピアはこの10年近く、年率10%に近い経済成長を達成、アフリカでは最も成功した国の1つに数えられるに至った。
 それが、再びTPLFとの内戦である。
 

ノーベル平和賞のアビー首相は多数派部族でTPLFを遠ざける​
 その主要因が、皮肉にもノーベル平和賞を受賞したアビー政権の登場である。2018年、アビー首相はTPLF主導の政権に代わって首相職に就いた。ところがエチオピア最大の部族であるオロモ族のアビー首相は、TPLFの政治家を遠ざけた。当然、冷や飯を食わされたTPLFは反発する。
 TPLFは9月、中央連邦政府の意向を無視してティグレ州内での選挙を強行、これに反発した中央連邦政府は、今月に至ってティグレ州の政府と議会を廃止し、暫定ティグレ州政府を立ち上げる決議を採択した。
 もともとTPLFのティグレ族は、エチオピアでは少数部族であり、人口もエチオピア全体の6%ほどしか占めていない。そのティグレ族主体のTPLFが長く中央政権を牛耳っていたことへの最大多数派オロモ族の反発が、今回の内戦の根底にある。ちなみにWHO事務局長のテドロスもティグレ族出身である。
 

​​​破綻国家の恐れ​
 内戦が長引けば、アフリカの奇跡とも呼ばれた経済成長が阻害され、エチオピア自身が、メンギスツ社会主義政権時代のような破綻国家に転落する恐れが高まる。
 ラリベラ(下の写真の上=聖ゲオルギウス岩窟教会)、ゴンダール、アクスム(下の写真の中央=アクスムのスティラ)などの優れた文化遺産、そしてダロール火山(下の写真の下)やセミエン国立公園などの自然遺産、アファール地方の初期人類の出土地に恵まれたエチオピアに1日も早い平和の訪れることを願ってやまない。

 

 

 


 なお外電によると、TPLFは15日、中央政府と連携する北の隣国のエリトリアを攻撃したという。エリトリアを巻き込んだ紛争に発展する恐れも出てきた。​​​

 

昨年の今日の日記:「樺太紀行(61);鉄道歴史博物館に見る現代サハリン州の鉄道事情、州都も電化はまだ」