華やかなイメージだった航空業界が、苦悶に喘いでいる。
 ANA(全日空)が、グループも含めて、年末ボーナスをゼロにする。月例賃金も、一般社員で5%がカットされる。夏のボーナスも1カ月分しか出なかったから、総合すると今年の年収は前年の7割程度に落ち込むそうだ。
 

航空需要が大減少​
 高給を当てにして多額の住宅ローンを組んだ社員は、ローン返済にも窮することになる。今は銀行も、事情によって元金返済を猶予し、当面は利子だけ払えば良いように相談には乗ってくれるようだが、それでは元金は減らない。
 年収3割減の理由は、武漢肺炎によって航空需要が蒸発したからだ。一時よりは客足は戻っても、国内線はなお前年比3割減。しかも収益の過半を稼ぐ国際線は82%減、である(写真=駐機場では飛べない飛行機が満杯)。
 航空業界は機材費や人件費の固定費が大きな割合を占めるから、搭乗者減はほぼそのまま赤字に直結するのだ。​

 

 

都落ちスッチーのJAL​
 この苦境が今年で終わるかは心許ない。たぶん来年2021年も、国内線はまだしも、国際線の超低空飛行は続くだろう。すると、ANA従業員の減収は、多少は持ち直しても来年も続く。
 航空業界に見切りを付け、希望退職する人も出てくる。ANAは、前からある希望退職にさらに退職金の割り増しをして募る。割り増し退職金で住宅ローンを精算する人も出てくるだろう。
 JALも苦境は、同じだ。賃金カットや人員削減に踏み込まないが、客足現象は同じだから、1000人の客室乗務員を地方に出張させ、観光振興に当たらせる。搭乗業務と兼務させると言いつつも、地方で年寄り相手の観光案内などをさせるのは、体の良い追い出し策のような気もする。
 

損益分岐点高いLCCの一部は日本撤退​
 安さを武器に、日本の空でも一定程度の存在感を持ち出したLCCも、ついに見切りをつける所が出てきた。
 エアアジア・ジャパン(写真)は、国内全4路線を廃止し、日本から撤退することを決めた。ジェットスター・ジャパンも、国内6路線を冬ダイヤの期間中、運休させることを決めた。LCCは、低廉な運賃を売り物にしているだけに、損益分岐点は高く、座席の8割以上の登場がなければ赤字に陥る。​

 


 

頑張って欲しい、サービス優良な日本の航空会社​
 現状のような航空需要の落ち込みが続けば、ANAもJALも経営を維持できない。手元資金は、ANAでは9カ月弱、JALでは1年ほどしかもたないとされる。
 一部に囁かれるのは、ANAとJALとの合併説である。これで重複路線を整理し、人員も合理化し、氷河期を乗り越えるというプランだが、そうすると日本の空は1社寡占、となる。航空運賃の値上げも、しやすくなる。
 外国航空会社の劣悪なサービスに辟易している僕にとって、定時運行の確かさ、客室乗務員の客対応の洗練さ、清潔な機内など、日の丸飛行機はなくてはならない「足」である。ぜひ未曾有の苦境を乗り切って欲しい、と心から望み、応援している。

 

昨年の今日の日記:「ついに社債が金利0%、それでも争って買う機関投資家の怪」