NHKスペシャル「ホットスポット 最後の楽園」は、僕にとって見逃せない野生動物の生態を捕らえたネイチャー番組だ。


新旧両大陸のヤマアラシの「針」はそれぞれ独立に進化した​
 その中で、何回目かに出てきた南米、マタアトランティカの樹上性のオマキヤマアラシ(写真)の生態は興味深かった。

 


 ヤマアラシの仲間で、全身を針で守っている。その針は、毛が進化したものだ。齧歯類のアメリカヤマアラシ科に属する。
 同じ齧歯類に属するヤマアラシに、ユーラシアとアフリカの旧大陸に分布する地上性のヤマアラシの仲間がいる。こちらは別系統のヤマアラシ科に属する。この針は強力で、缶すら貫くという。
 どちらがどちらの祖先・子孫という関係ではない。「ヤマアラシ」と名付けられているが、旧大陸ヤマアラシ科のヤマアラシと新大陸のアメリカヤマアラシ科とは、互いに別系統であり、その針はそれぞれが毛から独立に進化させたものである。​

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収斂進化、ハイイロオオカミとサイラシンの例​
 これを進化学では「収斂進化」と呼ぶ。
 その端的な例としてしばしば引用されるものに、旧大陸のハイイロオオカミと1世紀近く前に絶滅したオーストラリアのサイラシン(フクロオオカミ)がいる(写真下の写真の上はハイイロオオカミ、下の写真の下がサイラシン)。

 

 


 両者は、互いに肉食性で歯の形態や体形はよく似ているが、前者は有胎盤類の食肉類、後者は有袋類で、全く系統を異にする。サイラシンはオーストラリアという閉ざされた生態系で、草食である有袋類の中から肉食に特殊化した種が進化し、姿形が全くハイイロオオカミに似た形態になった。これは、収斂進化の最良の例である。
 アメリカヤマアラシ科とヤマアラシ科が、共に独立に毛を針に進化させたのは、むろん外敵から身を守るためである。齧歯類であることから、カピバラを除くと体形も小さい。防御に適する鋭い牙もない。そこで、いつしか毛が針のようになった系統が進化してきたのだ。​​​

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ハリネズミ、ハリモグラも​
 毛を針に変えるというのは、無防備な小型種では有効な防御策だったようで、前記2系統以外でもハリネズミが、やはり毛を変容させた針で体を防備する(​写真​)。ちなみにハリネズミは、その名にふさわしくなく、ネズミの仲間=齧歯類ではない。

 


 さらに系統が遠いオーストラリア産のハリモグラも、毛を針に変えて自らを防衛する(写真)。ハリモグラは、カモノハシのように卵生であり、こちらは単孔類に属するから、アメリカヤマアラシ科、ヤマアラシ科、ハリネズミ科とはかなり遠い関係にある。

 


 危険を察知すると針を逆立て体を丸め、とうてい捕食はできない。
 これらの系統を異にした動物が、何度も独立に毛を針に変容させる進化をしたのは、それだけ外敵の攻撃を受けることが多かったということだ。
 むろん彼らが意思を持って針という「武装」を成し遂げたのではない。毛だけの種の集団から初期のちょっとした「武装」を備えた個体が生まれ、その個体はそれだけ生き残り、子を多く残せたので、いつしか種集団内にそれが広がり、種全体が「武装」したのである。
 収斂進化は、だからダーウィン進化の最適な例と言えるのだ。​​

 

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