ナヴァリノ島という島を、ある本で初めて知った。人の住む地球最南端の島だという(各国の南極観測隊の基地を除く)。

 

ビーグル号のダーウィンが立ち寄った島
 南緯55度の亜南極に位置する(地図の矢印した島)。この島のビーグル水道に面した所に、「世界最南端の町」とされるプエルト・ウィリアムズ(写真)があり、2200人ぐらいが住んでいる。近年は、南極観光の前進基地として重要になっている。

 

 

 


 島の面するビーグル水道の地名から推定されるように、ダーウィンが乗って世界周航調査を行ったビーグル号が通過した水道だ。
 驚くべきは、ここに先住民が住んでいた。ヤーガン族というが(写真=1883年撮影)、西欧人との接触で伝染病を移されたりして、今ではほぼ絶滅した。

 

 

冬でも裸で眠るヤーガン族がいた!
 写真で注目していただきたいのは、全員がほぼ裸だ。実際、ダーウィンは彼らが夜も裸で寝ることに驚嘆している。亜南極に位置するので、夏も冷涼で平均10℃くらいにしかならないけれども、冬はマイナスになることは少なく、厳冬というわけではない。それにしても、裸というのは……。
 風が強く、冷涼なので、木は育たない。毛皮動物もいない。だから服を作らなかったのだろうが、その適応力には驚嘆するしかない。
 さらに驚かされるのは、ナヴァリナ島の西岸のバヒア・ウライア(上から2番目の地図の矢印を伏した街)には、ヤーガン族の祖先の1万年前の先史遺跡が見つかっていることだ。彼らは、1.3万年前頃にシベリアからベーリング陸橋を渡ってきたパレオインディアンの最南端まで行き着いた一派だった(写真=先史ヤーガン族の作った骨製銛先とバスケット)。

 

 

 

いかにしてパタゴニア氷河とビーグル水道を突破したのか
 1万年前の遺跡を残した人々は、パタゴニアの氷河地帯と急流のビーグル水道を突破してナヴァリナ島までやって来たのだ(写真=ビーグル水道に面した氷河)。

 


 僕は、極北のグリーンランド北部に4000年前に植民したインデペンデンスⅠ文化人にも驚くが(19年1月5日付日記:「寒いなんて震えていられない、4000年前に北極に住んだ原始人、インデペンデンスⅠ」を参照)、1万年前にこんな南端の島にまで植民した人類の冒険に驚嘆させられるのだ。
 彼らはなぜ北極や亜南極の不毛の島にまで植民したのか。それは、人類の持つ生得の好奇心から、としか説明できないだろう。そこに何があるのか、何の情報もなく、旅する装備もなかったのだ。

 

ヒトは南極大陸に行かなかったのか?
 その好奇心は、太平洋をかけめぐった先史ポリネシア人でも遺憾なく発揮されている。六分儀もなかった時代、彼らは波の動き、星の位置、海流などから、島伝いにはるか東の南米大陸まで往来していのだ(18年1月2日付日記:「海図も六分儀もない時代に南太平洋を往来した先史ポリネシア人がもたらしたサツマイモの革命」、及び07年7月7日付日記:「大洋を渡った北と南の古代航海者たち:パレオインディアン、ヴァイキング、サツマイモ」を参照)。
 だから僕は密かに期待している。いずれの日か、南極大陸のどこか、おそらくナヴァリナ島に近い南極半島のどこかで、先史人の遺跡が見つかるのではないか、と。

 

昨年の今日の日記:「種の絶滅を回避する有性生殖の仕組みへの再挑戦、ニュージーランドでウサギ駆除のために高毒性ウイルス散布」