ニシオンデンザメという巨大なサメがいる。北大西洋北部の冷たい海に住むので、日本にはなじみが薄いが、実は肉食性のサメの中で現生最大のサメである(写真)。

 

 

 

冷たい極北の海を泳ぐ肉食ザメ
 最大体長は7メートル超、体重は1トンもある。映画『ジョーズ』の巨大・獰猛なサメはホホジロザメで、これは大きくても5メートルくらいだから、それより一回りも大きい。
 僕が驚くのは、このサメの英名(Greenland Shark)が示すように、暖海ばかりかグリーンランドのような極北の海にも出没することだ。
 多くのサメは暖海に生きるのだが、ニシオンデンザメは水温0℃の極北環境でも生きられる(写真)。したがってホホジロザメと違って俊敏ではなく、動きはのんびりとしている。
 動きがトロいためにホホジロザメのような積極的なハンターではなく、待ち伏せや不意討ちで捕食する。食物は、北洋のサケ、マス、あるいはアザラシなどと見られる。
 胃の中からホッキョクグマの骨も見つかったというが、泳ぎが得意なホッキョクグマを緩慢なニシオンデンザメがとうてい襲えたとは考えられず、おそらく溺死か病死したクマを食べたのだろう。

 

緩慢な成長、400歳の長寿も
 動きが緩慢だということから、代謝を極端に節約型にしているのだ。だから冷たい水の中でも生きられ、動きがのろいのだ。実際に成長するのも、1年に約1センチ弱と遅い。
 だから最長7メートルなら、700年くらいかかる。
 それは途方も無い長寿である。一般に脊椎動物は、体サイズが大きいほど長寿だが、ニシオンデンザメは他を圧していて、脊椎動物で最も長寿である。これは、代謝を節約型にしているので、臓器や筋肉が長持ちするからなのだろう。
 ただサメの仲間は軟骨しか持たないので、石灰化する骨などの組織がない。そのため、「年輪」など年齢を数える手掛かりがない。漠然と400歳くらいまで生きるのではないか、と考えられていた。

 

デンマークの科学者が正確な年齢推定
 デンマークのユリウス・ニールセン氏らが以前にアメリカの科学誌『サイエンス』に発表した研究では、やはり長寿が科学的に確認された(写真=グリーンランド南西沖で他の漁で混獲されたニシオンデンザメの調査)。

 


 ニールセン氏らはニシオンデンザメ28匹の眼の水晶体を使って放射性炭素年代測定を行った。その結果、平均寿命は少なくとも272歳と見積もられ、中でも体長4.93メートルと5.02メートルの大きな2匹はそれぞれ335歳、392歳と推定された。
 それまでに脊椎動物では最も長寿とされたホッキョククジラは、211歳とされるが、それを上回り、やはり脊椎動物最長寿であることが確認された。

 

性成熟も遅く、150歳でやっと「おとな」
 これだけ成長が遅いと(代謝が不活発なのでしかたがない)、性成熟するまでも時間がかかる。ニールセン氏らの調査では、雌が性成熟するのは150歳を超える(!)。
 近年、ニシオンデンザメは急激に個体数を減らしており、1世代がこれほど長く、性成熟までも長期なので、個体数の回復は容易ではない。
 クジラ保護より重要である。
 なお以前に長寿の動物として(また超高齢でも繁殖能力があるとして)紹介したニュージーランドのジーランディア古大陸の生き残りのムカシトカゲも参照されたい(18年2月27日付日記:「NZミルフォード・トラックを歩く(26);『生きた化石』ムカシトカゲとジーランディア古大陸」)。

 

昨年の今日の日記:「福島、桜10景の旅(13);会津鉄道の桜見物と『ねこの駅長』の芦ノ牧温泉駅」