南大西洋の絶海の孤島。そこは寒冷で、いつも強い風が吹き(だから木はない)、月に20日以上も雨が降る。
 そんな島が、一時、世界の耳目を集めた。1982年の、島の領有権を主張するアルゼンチン軍事政権とサッチャー政権下のイギリスとの間で起こった戦争、である。島の名を取って「フォークランド戦争」と呼ばれる。

 

南米大陸から700キロも離れた孤島に肉食獣!
 さて本日は、この戦争の話ではない。これについては、既に述べたことがある(2007年4月3日付日記:「フォークランド戦争の教訓:サッチャー、軍事政権、『母をたずねて三千里』を参照)。
 実は、この絶海の孤島のフォークランド諸島(写真)にかつて食肉目イヌ科動物が住んでいたのだ。言うまでもなく肉食獣は、他の動物(草食獣)を食べて生きている。だから動物の個体群密度が少ない、孤島には、普通はいない。生きていけないのだ。

 

 

 フォークランド諸島は、南米アルゼンチンから700キロも離れている。だからこんな島に、肉食のフォークランドオオカミ()というイヌ科動物がいたことを最近知って、驚いたのである。

 

 

 生物の絶滅、進化などに関心を抱く僕にとって、この事実は、驚きと同時に絶滅の必然さを再確認させるものだった。

 

ダーウィンの「発見」と予言の半世紀もたたずに絶滅
 それは、彼の有名なチャールズ・ダーウィン大先生も同じだった。彼は、ビーグル号航海の途中、1833年に島を訪れ、フォークランドオオカミを発見した。
 フォークランドという孤島にこの動物のいたことに驚き、彼らがどうやってここまでたどり着いたのか、首をひねると同時に、移民が増えていけば、いずれ絶滅してしまうだろう、と予言した。
 彼の予言は、不吉にも的中し、それから半世紀も経たない1876年にフォークランドオオカミは絶滅してしまう。
 先史時代はいざ知らず、歴史時代になってイヌ科動物の絶滅が確認されたのはこれが初めてだった。

 

島の肉食獣は絶滅しやすい
 フォークランドオオカミは、体長約90センチ、体重約15キロほどで、中型犬並みのサイズだった。オオカミという名が付いているが、実はキツネに近い。
 絶滅したのは、入植者の狩猟の標的になり、また何よりも移入されたヒツジの害獣とされ、駆除されたからである。前述したように、孤島には餌になる動物が少ない。ペンギンや死んだ海鳥、昆虫で細々と生きていたようだ。
 それだけに個体群数も少なかったはずで、ポピュレーションの少なさは、偶然による「確率論的絶滅」に遭いやすい。肉食獣の脆弱さを、改めて認識させられる。
 よくも人間と出会う前まで生き延びていられたと思うのだが、「絶海の孤島」が別の疑問を呼ぶ。
 彼らはいったいどうやって島に渡って来られたのだろう?

 

氷河期最盛期には南米本土から数十キロ
 今でこそフォークランドは、南米大陸と離れているが、実は南米との間の海の水深はあまり深くない。だから氷河期に海水面が最大100メートル近くも低下した時は、南米との間の距離は、島伝いと考えれば、数十キロ程度と今よりずっと縮まっていたらしい。
 それほど狭まった海峡であれば、流氷に乗って渡って来られただろう。
 ちなみに遺伝子の研究によると、フォークランドオオカミに最も近縁なのは、南米のタテガミオオカミで、フォークランドオオカミの祖先はタテガミオオカミの祖先と、670万年前頃に分岐したらしい。
 南米本土では、フォークランドオオカミははるか大昔に絶滅してしまったが、その子孫がフォークランドに渡り、細々と生をつないでいたと考えられる。

 

避難所は小さすぎ、しかも袋小路
 その意味で、他の肉食獣のいないフォークランドは彼らの最後の避難所であった。ただその避難所はあまりにも小さすぎ、しかも袋小路であった。
 個体群数を増やせなかったために、18世紀にヨーロッパ人が入植を始めると、たった100年ほどで絶滅してしまったのである。
 哀れ、フォークランドオオカミよ。

 

昨年の今日の日記:「韓国前大統領の朴槿恵氏に北朝鮮による暗殺の危機;無防備で収監されている彼女をならず者たちに殺させるな」