9日行われた韓国大統領選は、予想どおり従北左派の文在寅(共に民主党)が当選した(写真)。

 


 予測を外したのは、朴槿恵前政権の与党「自由韓国党」の保守系、洪準杓氏が意外の健闘を見せて次点に食い込み、中道保守系「国民の党」の安哲秀氏を上回ったことだ。

 

保守と中道保守が割れて従北派の勝利を許すが、文の得票率は4割
 投票率は77.2%で、前回2012年の75.8%を上回ったことから、従北左派大統領の出現に危機感を抱いた草の根保守が洪氏に結集し、また一時は安氏に逃避していた保守票を奪い返した結果だと思われる。
 韓国の大統領選挙は、保守と左派が長年しのぎを削ってきたが、それも一枚岩ではなく、しはしば両陣営のいずれかが割れた。割れた陣営は、票が分散し、確実に共倒れした。
 今回も、保守・中道保守が割れ、従北派の勝利を許した。
 実際、当選した文在寅の得票率は41.08%(1342万3800票)で、事前の世論調査の支持率とほとんど変わらない。つまり得票の上積みはなく、しかも過半数を大きく割っているので、分裂した保守・中道保守に助けられたことがはっきりしている。

 

保守・洪氏と中道保守・安氏の得票を合わせれば文を凌駕
 韓国の大統領選挙制度は、フランスなどの大統領選と異なり、1回だけ。過半数に達せずとも、比較第1位になった候補が当選する。
 だからわかり切ったことだが、分裂すれば負けるのだ。
 実際、次点の洪準杓氏の得票率は24.03%(785万2849票)、3位の安哲秀氏は21.41%(699万8342票)だ。仮に両派の共闘が成り、どちらかに票を集中できれば、文在寅を逆転できた。
 わかり切ったことで、保守が安氏に一本化できなかったのは、将来を見据えた保守の巧みな戦略があるのかもしれない。

 

国会で文の出す法案を否決できる
 例えば国会の議席数(定数300)は、文在寅与党の「共に民主党」は過半数に遠い120議席しかない。文在寅の得票率とほぼ同じ40%しか持っていないのだ。たとえ文が何かしようとしても、保守と中道保守が連合すれば、文の出した法案を国会で否決できる。
 ただ外交と安全保障は、大統領の専権事項だ。従北派文在寅が北朝鮮ならず者集団に経済支援をしようとすれば、阻止できない。
 実際、文は、北朝鮮ならず者集団の重要な外貨獲得源であるケソン工業団地と金剛山観光事業の再開も目指している。スターリニスト中国も含めてアメリカなど世界がならず者集団封じ込め・制裁を加えている中、韓国の文だけが平壌を訪問し、金正恩と握手すれば、世界中から非難される。特にトランプ大統領から、通商面で厳しい制裁を受けるだろう。

 

行き詰まりは明らか、保守が街頭で文在寅を打倒する?
 さらにスターリニスト中国から嫌がらせを受けた原因のTHAADにも後ろ向きだ。ただこれは、既に文在寅当選を見越してアメリカが配備を終えている。今さら撤去などできない。
 つまり文は、国内で思ったこともできず、外交面でも行き詰まる。
 そこに左派お得意の街頭行動を保守が起こし、場合によっては実力で打倒しようとしているのではないか。

 

日本との関係修復は望み薄
 日本に対しては、一昨年12月の日韓合意を白紙に戻す懸念がある。慰安婦像も、そのままにするだろう。何しろ昨年7月、竹島に上陸した筋金入りの反日左派だから。
 日本は、当面、対韓関係修復を諦めざるを得ない。
 ただ、スターリニスト中国から経済制裁を受け、さらにトランプ氏との難しい関係が予想される文在寅にとって、日本との関係修復は願うところなのかもしれない。文の方から歩み寄ってくるのを待つのが良いだろう。

 

文在寅ら左派が承認阻止した米韓FTAをトランプ大統領が覆す?
 文在寅にとって、トランプ政権のアメリカとの関係は、難しくなってくる。特に2012年に発効した米韓FTAは、トランプ政権が「破棄か再交渉」を求めてくるのが必至だけに死活的問題になるだろう。
 皮肉なことに、保守の李明博政権のもとで締結された米韓FTAは、文在寅の左派が過激な街頭行動まで起こして国会での批准阻止を目指した協定だ(批准阻止の国会でのドタバタは、11年11月25日付日記:「催涙弾まで投げられた韓国暴力議会での米韓FTA批准とその反響;韓国、原発大国へ意欲;ジャンル=現代史」を参照)。
 そして発効してみれば、結果は韓国の一方的利益になった。この間、韓国は対米自動車輸出が無関税になるなどのメリットを活かし、16年までに対米輸出額を13%も伸ばし、664億ドルにまで拡大させた。一方で対米輸入額は微減の432億ドルと、対米貿易黒字を拡大させている。

 

中国市場から閉め出された韓国にFTA破棄はあり得ない
 この不均等を、トランプ大統領が見逃すはずはない。すでにトランプ大統領は、米韓FTAの破棄か再交渉を求めることを近く発表する意向だ。
 その時、文はかつて米韓FTA阻止に実力行動を行った自らの支持層を説得できるのだろうか。FTA破棄となれば、世界2位の有力市場を失う危機に陥る。
 昨年で世界1位だったスターリニスト中国からすでに閉め出しを食らっている韓国に、米韓FTA廃棄の選択肢はない。
 貧困青年対策にも有効な手を打てず、米韓FTAも危機、北朝鮮ならず者集団へのすり寄りも対外的に難しいという八方ふさがりを、保守は手ぐすね引いて待っている。

 

昨年の今日の日記:「エチオピア紀行(41):青ナイルの滝を訪問! しかし乾季でちょろちょろも、滝壺に接近」