23日の大統領選を控えたフランス、パリの中心部、観光地でもあるシャンゼリゼ通りで、20日夜(日本時間で21日未明)、銃撃事件が起こり、警官3人が死傷、犯人は射殺された(写真=テロで厳戒態勢のパリ)。

 

 

 大統領選を控えてのISIL(自称「イスラム国」)のテロである。犯人は、ベルギー国籍のムスリムだから、典型的なホーム・グロウン・テロリストである。

 

テロは大統領選を動かすか
 さて、その大統領選挙である。この大統領選は、テロ対策が最大の焦点に浮かび上がったかっこうだが、そうなると一時は支持率トップを独走していたものの、最近は失速気味の「極右」と呼ばれ、移民排斥を掲げる国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(写真)が、俄然有利となるだろう。

 


 ただ、それ以上は分からない。何しろ第1回投票は、明日なのだから。フランス国民がテロをどのように消化するかは不明だ。
 日本では一般にさほどの関心が持たれていないが、テロ以前はこの23日の第1回投票に、欧米各国と金融関係者に懸念を大きくしていた。

 

極右と極左を含めた4人の争い
 10人ほどの候補者が出馬しているが、有力候補は次の4人に絞られている。
 極右と呼ばれ、反EU・反移民・親ロシアの国民戦線のマリーヌ・ルペン党首、中道・独立系で親EU・反ロシアのエマニュエル・マクロン氏、親EU・右派のフランソワ・フィヨン氏、そして反EU・親ロの極左のジャンリュック・メランションの4人で、支持率6ポイント内で激しいつばぜり合いをしている(この他、はるかに後れて現与党の社会党のベノワ・アモン候補がいるが、埒外と見られている)。
 20日発表された直近の世論調査によると、支持率1位は従来からトップを走っていたルペン氏を抜き去ったマクロン氏が24.0%となり、後れをとったルペン氏が22.5%で2位につけ、フィヨン氏19.5%で3位、そしてこのところ支持率が急上昇している極左のメランションが18.5%と肉薄する(写真=左からフィヨン、マクロン、メランション、ルペン、アモンの各候補)。

 

 

極左メランションの急浮上で懸念増大
 注目されるのは、ルペン氏の失速だ。テロで移民排斥機運が高まれば、また急浮上する可能性もあるが、それまでは第1回投票で過半数は取れないものの、1位で決選投票に進むのは間違いなし、とされていた。
 それが、不透明になった。
 欧米政界は、ルペン氏が決選投票の第2回投票に進んでも、2位になるはずのマクロン氏かフィヨン氏に反極右の票が集まり、逆転当選する、と予測していた。
 したがってさほどルペン1位を驚異としていなかった。
 ところが極左のメランションが18.5%まで支持率を上げてきたことで、最悪の1回投票結果を懸念せざるを得なくなったのだ。
 すなわち1位ルペン・2位メランションという結果である。

 

反EUで親ロシアの共同歩調の両極
 冒頭に述べたように、極右と極左という両極端の2人は、不可思議にもいずれも反EU・親ロシアで一致する。ルペン氏は排外主義の具体的表現として反EUで、ポピュリズムでロシアのプーチンと思想的に共鳴する。実際ルペン氏とプーチンは、互いにエールを送り合う関係だ。
 一方、極左のメランション(写真)は、2008年に社会党を離党し、左翼党を結成。2012年の大統領選で共産党と組んだ「左派戦線」から出馬した経歴を持つ(もちろん第1回投票で落選)。昨年死んだキューバのフィデル・カストロを慕う。したがって労働者保護の立場から反EUだし、独裁的なロシアにも親近感を抱く。

 

 

EUの運命の決まる日
 23日の第1回投票でこの2人での決選投票進出が決まれば、その時点でEUの運命は終わりだ。またEUの対ロシア制裁も、空洞化する。
 そうなれば、国際政治と国際経済に大激震が襲うことは確実だ。
 直近の支持率を見ると、1位ルペン・2位メランションの可能性は乏しそうだが、世界は昨年2つの「まさか」を経験し、その度に為替と株式の市場が激動した記憶が新しい。
 すなわち昨年6月のイギリスの国民投票で「まさか」のEU離脱決定と、11月のトランプ氏の大統領当選という「まさか」の大番狂わせである。
 もし2人のどちらかが決選投票で勝ち、大統領になれば、EUは解体か、もしくは「ドイツ連合」へと縮小・変質する運命をたどる。
 今度こそ3度目の正直で、「まさか」が起きないことを祈るのみだ。テロが、均衡を破らないことを願う。

 

昨年の今日の日記:「人類最後の定住大陸、南アメリカに進出したヒトの人口動態は2段階に分かれた」