間もなく退任するオバマの落日、そしてそのオバマに率いられたアメリカの沈下を象徴する出来事であった。シリアの停戦、である。
停戦は発効したが
ロシアとトルコが仲介して、シリアのアサド政権と自由シリア軍(写真)などの反体制派勢力との間に29日、全土での停戦が合意され、30日に発効した。これまで何度も停戦が取り決められ、すぐに反故・破綻してきた停戦、である。今回も、いつまでもつか、疑問視される。
停戦は、シリア国内のムスリムテロリスト集団であるISIL(自称「イスラム国」)やアルカイダ系テロ組織「レバント征服戦線」などを含まない。
ただ「レバント征服戦線」は、時には自由シリア軍と共闘しているし、アレッポで反体制派武装勢力を放逐して軍事的に圧倒的優位に立ったアサド政権軍が停戦を守るとも思えない(写真=廃墟となったアレッポ市街)。
アメリカの圧倒的影響力は今は昔
しかし何にもまして今回の停戦で鮮明になったのは、停戦がアメリカ抜きで成立したことだ。
アサド政権の守護者のプーチンのロシアと、今夏のクーデター未遂の背後にアメリカの関与を疑い、国内で実行犯とされるギュレン派ばかりか政権に批判的な左派系組織をも弾圧する強権エルドアンのトルコが、オバマのアメリカを排除して停戦を主導した。
オバマの政権2期目あたりから、アメリカの中東での影響力は著しく地盤沈下している。ブッシュ政権時代と圧倒的影響力と月とすっぽんの差となっている。
イスラエルからも強い反発
1週間ほど前の23日も、国連安保理事会がイスラエルによる入植地建設を非難し、即時停止を求める決議を採択したが、この時、オバマのアメリカは常に拒否権を行使し、反イスラエル決議を阻止してきた慣例を破り、決議案成立を認めた。これにより、イスラエルのネタニヤフ首相の激しい怒りを買った。現在、このような決議が中東和平に効果的かどうか大いに疑問があるのに、である。
今回、トルコがロシアと結んだのは、オバマのアメリカの失墜している威信を見限ったことにある。そしてシリア国内の反体制派に、アサド政権との停戦を飲ませた。
狡猾にもエルドアンは、この停戦でムスリムテロリスト集団の他にも、北部で活躍するクルド系武装組織も対象外としている。トルコは、遠慮なくクルド系武装組織を攻撃できる。
クルド系武装組織は、アメリカが唯一、シリア国内でアサドと対抗できる軍事力を持つと認識してきた勢力だ。
スペイン内戦の悲劇のアナロジー
シリアでのアメリカの権威の失墜は深刻である。自由シリア軍の中には、アメリカへの幻滅からISILやレバント征服戦線に合流する兵士たちも続出している。オバマの失政の責任は、重大だ。
停戦、と言っても、今回の事態は、パックス・ルッソ=アサディーナ(ロシアとアサド政権の力の下での平和)の招来である。シリアが自由シリア軍の蜂起前のアサド独裁時代に回帰する前兆、とも言える。
これは、西欧民主主義国の傍観でナチの支援を受けたファシスト・フランコ政権の登場を許した80年前のスペイン内戦(写真)の悲劇のアナロジーではないか。
昨年の今日の日記:「イラク軍、要衝ラマディをISILから奪還、シリアも含めてISIL根絶にまた1歩」