75年前の今日、12月8日の日本軍によるハワイ、真珠湾攻撃を控えた5日、安倍首相は年末の26~27日、攻撃の犠牲者に慰霊のため真珠湾を訪問する、と発表した。併せて退任する大統領のオバマと会談する。

 

日米安保同盟をさらに固める訪問
 安倍首相の真珠湾訪問の発表は、日米を通じて歓迎一色で受け止められている。今年5月のオバマの広島のちょうど半年後、安倍首相が真珠湾に行くのは、その答礼なのだろう。日本へのわだかまりが、なおアメリカ国民に残っているとすれば、慰霊の旅は、固い絆で結ばれた日米安保同盟をさらに確かにする点で有意義である。
 退任間近で、一方で急膨張するトランプ次期大統領の存在感にすっかり霞んだ長年の盟友のオバマーに、最後の花を持たせる旅とも言える。

 

去りゆくオバマに最後に花
 TPP、パリ協定締結、オバマケア、核軍縮……など、オバマのレガシーがトランプ次期大統領によって相次いでくつがえされそうな今、先月、世界の首脳に先駆けていち早くトランプタワーに出かけてトランプ氏と会談した安倍首相のバランス外交の一環でもある。トランプ次期大統領も、この慰霊のための訪問は歓迎するだろう。
 そして安倍首相とオバマの2人が並んで、真珠湾の犠牲者を追悼することで、去りゆくオバマは一瞬だが光芒を放てる。巧みな外交、と言える。

 

他国首脳を尻目に超多忙なトランプ氏と会談したソフトバンクの孫氏
 さて巧みさでは、その安倍首相のさらに上を行くかもしれない1人の男がいる。
 安倍首相も訪ねたトランプ次期大統領の自宅・執務室のあるトランプタワーを6日午後(日本時間7日未明)を訪ねたソフトバンクグループの孫正義氏である。他国の首脳とすらまだほとんど会談していないトランプ次期大統領が、日本の1企業人と会うのは、驚きである。さすが政商、と言うべきか。
 これまで一面識すらなかった孫氏と、次期政権人事などで超多忙なトランプ次期大統領が1時間弱、会談したことに、両者のしたたかな計算がのぞく。

 

巨額投資と新規雇用創出をさっそく誇ったトランプ氏
 例えば会談を終えたトランプ氏は、安倍首相に遇したように玄関まで孫氏を見送り、一緒にカメラに収まった(写真)。そして、孫氏がアメリカのベンチャー企業などに総額500億ドル(約5兆7000億円)も投資し、約5万人の雇用を創出することを約束したことを両者は明らかにした。

 


 この約束は、大統領就任を控えたトランプ氏にとって、大きなアピールになる。「マサは、私が大統領選で勝たなければこんなことはしていなかっただろうと言っていた!」と、孫氏をファーストネームで呼んで、トランプ氏はツイッターへの投稿で、成果を誇った。
 自らの勝利がアメリカに巨額投資を呼び込んだとアピールできる機会を手にしたトランプ氏は、やはりしたたかである。

 

3.3兆円のイギリス企業買収に続いて
 一方の孫氏も、さらにしたたかである。
 まず投資するという500億ドルは、自分のカネではない。実はソフトバンク本体は、7月にイギリスに本社を置く世界的な半導体開発会社「ARMホールディングス」をおよそ3.3兆円で買収することにしただけに、もうカネはない。
 しかし金満サウジアラビアの政府系ファンドを抱き込んで10月に共同設立したばかりの10兆円規模のファンドからカネを出す。
 孫氏にすれば、トランプ氏に恩を売り、新たな投資先を最優先で確保できる絶好のチャンスだった。

 

失敗した買収策のスプリントの巻き返し
 そしてもう1つ、孫氏には大きな目的、悲願の1つを達成できる目処をつけたと言えるのではないか。
 ソフトバンクは2013年夏にアメリカの携帯電話3位(当時)のスプリントを買収したが、「つながらない」などと不評のスプリントは、その後も大きな赤字を垂れ流し、これまでM&Aで肥大してきたソフトバンクにとって最大の失敗とも酷評された。
 起死回生策は、当時第4位のTモバイル社を買収のうえ、両社を合併させ、アメリカの携帯ビッグ3を築くことだったが、この計画は寡占を嫌うアメリカ連邦通信委員会(FCC)の認可が得られずに挫折した。

 

よみがえるかTモバイルの買収・合併
 計画の頓挫後、スプリントは、赤字の止血のためにリストラを迫られる一方、Tモバイルは無料動画配信や低価格戦略でアメリカ国内で最も成長スピードの速い通信会社になっている。孫氏の逃した大魚は、大きかった。
 そこに、積極的な規制緩和でアメリカ経済に活力を呼び戻すと公言するトランプ次期大統領の登場である。
 Tモバイルの買収とスプリントとの合併に道が大きく開いた。
 その機をとらえた孫氏と、孫氏のすり寄りを拒む理由のないトランプ氏。2人に言える共通の言葉は、やはり「したたか」である。

 

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