保険制度崩壊の危機と問題視されている超高額の新型抗がん剤オプジーボ(写真)が、来年度から50%という大幅薬価下げとなることが決まった。11月16日の中医協で、了承された。

 



イギリスの5倍、アメリカの2倍ものバカ高値
 夏から対応策を練っていた厚労省は、当初は慣例を破って来年度から25%引き下げを決めていたが、安倍首相による10月14日の経済財政諮問会議での医療費の削減の指示で、さらに踏み込む対策をとることにした。
 小野薬品の開発した新型がん治療薬「オプジーボ」が、日本の保健医療制度を崩壊させる、と識者から強い懸念を出されていることを受け、厚労省は10月5日の中医協でオプジーボの薬価を来年度から緊急に引き下げ検討を始め、25%引き下げられる見通しだったものが、安倍首相の指示もあり、やっと50%下げで決着した。それでもがん患者1人の年間薬剤費は1700万~1800万円かかる構造は、基本的に変わらない。
 日本でのオプジーボの値段(100ミリグラム)は約73万円で、アメリカはこの4割、イギリスでは2割程度に過ぎない。それでも高価であるのだが、日本はそれぞれ2倍、5倍もの超高額となっている。50%引き下げは、国際的に高価な日本の薬価見直しの一環でもある。

次々適用拡大される薬、使用患者は激増中
 それほど高額に設定されたのは、最初、14年7月に適用患者がせいぜい数百人、と考えられたある種の悪性黒色腫(メラノーマ)に保険適用されたからだ。総額としては大したことはないし、薬価を決めた関係者も「どうせ自分の金ではない」と思っていたはずだ。
 ところがその後、15年12月に肺がんの8割を占める非小細胞肺がんに適用が拡大され、適用患者数が激増した。8月には腎臓がんにも適用され、さらにこの2日には、血液がんの1種であるホジキンリンパ腫(国内患者は約2000人)にも適用、となった。
 これで4種類目だが、50%下げになっても安心できない。18年3月には、胃がんの適用が承認される見込みで、使用患者は激増し、健保制度の破綻が俄然、現実味を帯びてきている。

高額治療は無限に許されるのか
 オプジーボが今まで抗癌剤の効かなかった患者にも著効を示すことは、医師ならすべてが認める。しかしそれが次々と適用拡大され、患者が野放図に使用するようになることは、まともな医師なら危機感を示すのも同じだ。
 しかもオプジーボが適用を認められた癌患者すべてに効くとは限らないのも問題だ。1年間、1800万円もかけて使いました、しかし効きませんでした、という例がたくさんある。そのような無駄が許される財政状況ではない。
 アメリカでは、一流の癌治療を受けると(アメリカには日本の保険制度のような治療の公定価格がない。医師によっても治療費に天と地の差がある)、普通の勤め人の年収の半分が民間保険会社に払う保険料と自己負担でもっていかれる。
 肺癌患者の出た家庭では、7.7%が自己破産した、ともいう。

使う医者もいい気分か
 それが日本では、適用全患者がほとんど自己負担の心配無しに高額療養を受けられる。したがってオプジーボに限らないが、1人の患者に数千万円もかかった超高額医療がまかり通る。
 医師も、「この治療には年間1800万円かかります」などど金の話をせずに、本人と患者に超高額医療を勧められる。医師には、きっと「患者さんの命を救えるかもしれない」と、いい気分なのだろう。
 しかし、オプジーボの提起した問題は、もはや「お金よりも命だ」などという「偽性の正義感」が通る時代ではないことを教えた。

「偽性の正義感」を振り払うべし
 今や国民医療費は40兆円を超え、国家財政と健保財政を大きく圧迫しているのだ。まだ20兆円に達しなかったバブル時代の25年前などと、状況は大きく変わった。医療の進歩と高齢化の進行で、医療費がさらに伸びる25年後には4倍の160兆円に達しているかもしれない。
 そんな金は、誰も負担できない。何もしなければ、ギリシャのような国家破綻が待っている。おそらく10年と、もつまい。すでに識者の中には、真剣にその懸念を示す人もいる。
 ちなみに皆保険制度で、すべての薬、治療をカバーしている日本は、世界でも例外に属する。

所得制限は必ずしも公正ではない
 したがって結論は自ずとオプジーボなどの超高額薬・治療に制限を設けざるを得ない、ということになる。その場合、一定の年齢での制限が最も公正である。
 俗耳に心地よい所得による制限は、億という資産を持ちながら所得は年金だけという金持ち高齢者がいるから、不公正である。
 建前の正義論を唱える「進歩的」マスコミと民進党などの野党は、この現実をどう見ているのだろうか。
 なお本年8月28日付日記:「画期的新薬が医療保険制度を崩壊させるか? オプジーボという『怪物』」も参照されたい。

昨年の今日の日記:「アメリカでついにムスリム原理主義者のテロ;靖国のテロは韓国人;JR東日本の頻発する列車遅延」