インドのナレンドラ・モディ首相が10日、来日した。安倍首相は、インドが導入予定の新幹線にモディ首相と新神戸まで同乗した他、工場も案内し、歓待した。
 アジアの民主主義大国と様々な話し合いも行った。

 

約9割の価値の紙幣無効のたった4時間前に発表
 そのモディ首相、訪日前の8日午後8時、突如としてテレビで4時間後の9日から高額紙幣2種類が使えなくなる、と発表し、インド国民を仰天させた。
 廃止される高額紙幣は、最高額1000ルピー札(日本円換算で約1600円)と、2番目に高額の500ルピー札(同約800円)だ(写真)。日本で言えば、1万円札、5000円札がいきなり使えなくなるのと同じ感覚だ。インドでは、他に100ルピー札以下、5種類が流通しているが、1000ルピー札と500ルピー札の2種で、総価値の9割を占めている。実質的には、すべてのマネーが使えなくなったも同然だ。

 

 

8日夜のATMには長蛇の列
 泡を食ったのは、インド国民だ。
 混乱を避けるために、翌9日はインド全国の銀行や郵便局が閉鎖となったから、8日の夜、発表を聞いた国民が銀行のATMに長い列を作る光景が、インド中で見られた(写真)。

 


 インド国民にとって、時差の関係で9日に開票結果が伝えられつつあったアメリカ大統領選挙など上の空であったに違いない。
 ただ、この突然の「廃貨」は、戦後間もなくの日本で断行された「新円切り換え」とは異なる。新円切り換えでは、1家庭で一定額以上は新円に切り替えられず、後は紙くずとなった。急激に進んでいたインフレを抑え込むためだった。

 

ブラックマネー退治
 インドの「廃貨」の目的を、モディ首相は偽造紙幣や汚職、資金洗浄などの根絶が目的だとした。だから銀行に「廃貨」2種をいったん預金なりして入金すれば、使用可能な100ルピー札や新たに導入された2000ルピー札か新500ルピー札を受け取れる。
 実際、途上国のどこでもそうだが、インドも流通するのはブラックマネーが大半だとされる。

 

脱税横行のインドの改革に向ける妙手か
 最も大きな目的は、脱税対策でとされる。
 インドでは現金決済が主流で、銀行決済があまり利用されない。使用される紙幣のほとんどは廃止となった1000ルピー札と500ルピー札で、自宅に「タンス預金」される。
 このため、国民の資産の捕捉が難しく、低所得者だけでなく、富裕層の中でも納税をしない人も多く見られる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、2013年に所得税を払ったのはインド人口の1.6%しかいなかったという。
 だから旧札の交換のために銀行への入金させれば、国民の資産を把握できる。嫌なら、現金資産は紙くずとなるだけだ。

 

これまで何度も断念した策をついに断行
 これまでインドの何代もの政権が、金融システムの外にある国民の金をシステム内に入れさせることで透明化させ、ブラックマネーやグレイマネーを排除しようとしてきたが、断念してきた。政治家や富豪の反発があったからだ。
 それをモディ首相が断行した。
 この荒療治を敢行できたモディ首相は、インド現代史では最強の指導者になるのかもしれない。
 ただ何せ人口12億人の大国で、しかもカード決済などがほとんど普及していない国だ。国内には新紙幣がまだ広く流通するまでには遠く、けっこう混乱も起きているようだ。
 なお所用により、明日の日記は休載します。

 

昨年の今日の日記:「金正恩の最側近で序列2位の崔竜海が失脚、些細なことで;現代史」