国によっても微妙に異なるが、現代人はだいたい右利きである。約90%は、右利きと言われる。ところが、である。我々に最も近いチンパンジーは、右利きと左利きの比率は、ほぼ50対50だ。
右利き優位は偶然か、だがそれはいつから?
おそらく人類の祖先が、チンパンジーの祖先と分岐した後のいつか、右利きが優位になったに違いない。
ただ数百万年前の採集生活では、右利きも左利きもどちらが生存に有利であったかは関係がない。それは、チンパンジーの比率がイーブンであることからも明白だ。
だから人類が現在のように、顕著な右利き優位となったのは、たまたま偶然であったのだろう。
さてそうすると、ホミニン(ヒト族)はいつ頃から右利き優位になったのだろうか。
その謎の手がかりとなる1つのホミニン上顎骨の研究結果が、先頃、アメリカ、カンザス大人類学部の名誉教授のデイヴィッド・フレイヤー氏によって学術誌『人類進化学雑誌』オンライン版に発表された。
上顎全歯の残ったOH65の前歯に
フレイヤー氏の資料としたのは、タンザニアのオルドゥヴァイ峡谷でラトガース大のロバート・ブルーメンシャインらにより1995年に発見された180万年前のホモ・ハビリス上顎化石OH65である(写真)。
OH65は、歯が16本すべて揃った完全な上顎骨だ。顔面下部も付いていた。重要なのは、ホモ・ハビリスが作った数百点の石器と、彼らによって解体されたと思われる獣骨群も見つかったことだ。
さてフレイヤー氏は、この完全な上顎骨を分析し、前歯の唇側の細い切り傷、溝が右上から左下に斜めに、つまり左下がりに付いていることを発見した。この細い溝は、前歯唇側にしかなかった。
おそらく硬くて筋っぽい肉の塊を前歯で噛み切るのに、左手で肉塊を支え、右手で石器を使って切っていたが、その時に歯も傷つけた痕、と判断された。
つまりこのホモ・ハビリス個体OH65は、右利きだったことになる。
大脳半球にも左右の偏り
フレイヤー氏によると、ホモ・ハビリスの脳に左半球と右半球に偏りがあり、その偏りは類人猿よりも現代人のものに似ていることが分かっているという。これが利き手の偏りと関係していると語る。
つまりホモ・ハビリスの個体群は大多数が右利きだったのではないか、ということになる。だとすれば、右利き優位の起源はさらに古い可能性もある。
右利きが圧倒的だから日常の機器はすべて右利き仕様
さて現代の我々は、右利きが圧倒的多数だから、道具なども右利き用に作られている。洋裁をする女性は、わざわざ左利き用のハサミを用意しなければならないし、日常的にも胸ポケットは右利き向けに左側に付いているし、電車の自動改札もICカード接触面は右側にある。
僕が日常的に使っているパソコンも、完全に右利き用だ。マウスは右で操作するようになっているし、重要なenterキーは、右端と決まっている。左利きの人には、きわめて使いにくいのではないか。
僕は右利きだからそれで便益を受けているが、マイノリティーである左利きの人にはずいぶんと不便ではなかろうか。
左利きが有利な野球と卓球
しかし神は、左利きの人ばかりに一方的に不利とならないようにも配慮した。スポーツの世界で、野球選手や卓球選手は、左利きの方に有利となっている。
例えば野球の投手なら、右投手より左投手の方が一塁走者を牽制しやすい。
打者にしても、右投手より少ない左投手には戸惑う。今は右投げ左打ちの選手も多くなっているからさほど目立たなくなっているが、昔は左打者はだいたい左利きの選手だった。打者なら左打者が右打者より圧倒的に有利だ。一塁に近いし、打った後は体が一塁方向に向くからすぎ走れる。
だからなのだろう、プロ野球の投手と国際的な卓球選手では、一般よりも有意にサウスポーが多くなっている。
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